愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 新婚旅行で訪れた、小さなオルゴール専門店だ。  その店のオルゴール付きジュエリーボックスを、紗那がいたく気に入っていたのを、司はずっと忘れられずにいて……。  五年目の結婚記念日に、贈ろうと考えていたのだった。 (そうか。オルゴールは好きな曲を選べるんだけど、生産開始から出荷まで一~二ヶ月掛かるってことだったから、早めに注文しておいたんだった。確か、オプションで花束も付けられたんだよな。すっかり忘れてた)  紗那は気に入ってくれるだろうか?  ……いや。そもそも、新婚旅行の出来事など覚えているだろうか?  そんなことを思いながら紗那に目を移す。  彼女は緊張しているような顔つきで段ボール箱を開け、上品な柄の包装紙で包まれた、更に小さな箱を取り出した。  小さいと言っても、手のひらサイズではない。縦十六センチ、横二十ニセンチ、高さ八センチほどの長方形の箱だ。  紗那は慎重に包装紙を剥がし、箱の蓋を開けると、中に入っているオルゴールの本体を取り出してテーブルの上に置いた。 (あ……。やっぱりそうだった。紗那の欲しがっていたオルゴール。オルゴール付きのジュエリーボックス)  司は小さくうなずいてから、恐る恐る紗那の顔色を窺う。  彼女は呆然とした顔つきで、しばらくの間ジュエリーボックスを見つめていた。
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