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「ありがとう、司くん。……大好き。大好きだよ」
しみじみとつぶやいた後。
紗那は両手で顔を覆い、体を丸めて、幼子のように泣き出した。
「司くん……! 司くん、ヤダよぉ……。やっぱりヤダよぉ! あなたがいないなんて。もうどこにもいないなんて。……ヤダ! ヤダぁああッ!!」
喉が裂けてしまうのではと、心配になるほどに。
紗那はわぁわぁと絶叫し、激しく頭を振り乱した。
ここ数週間ほどの落ち着きが、信じられないほどの慟哭。
聞いている者の胸をキリキリと締め付ける、痛切な叫びだった。
司は動揺した。
妻の急激な変化についてい行けず、ただオロオロと、号泣する姿を眺めていた。
(紗那。紗那、どうして……。さっきまで、穏やかな日常を過ごしていたのに……)
しばらくは、呆然と立ち尽くすのみだった。
今の彼には、妻の涙を拭ってやることも、思い切り抱きしめてやることもできない。
無力感に打ちのめされ、司は両手で頭を抱えた。
瞬間、彼の脳裏にある言葉が浮かび、ハッとして顔を上げる。
「昔ね? 両親が交通事故でいっぺんに亡くなっちゃった時。私がわんわん泣いてたら、祖母が言ったの。『紗那、そんなに声を上げて泣いてはダメだよ。紗那が泣き続けていたら、お父さんもお母さんも、おまえのことが心配で、成仏できなくなってしまうから』って。『泣くのなら、もっと静かにお泣き。悲しみを主張するように、大声で泣いてはいけないよ』って」
「だから私、人が亡くなって悲しい時は、夜、布団を頭からすっぽり被って、声を殺して泣くことにしてるの。大切な人が、私のせいで天国に行けなかったりしたら、イヤだもの」
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