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……ああ、そうだ。
いつだったか、紗那は俺に、そんな話をしてくれたっけ。
……そうか、だからか。
だから紗那は、今日まで泣かなかったんだ。……いや、泣けなかったんだ。
声を上げて泣いたら、俺が成仏できなくなると思って。
悲しみを主張して泣き続けていたら、俺が天国に行けなくなると思って……。
どうしてそんな大切なことを、今まで忘れていたのだろう?
紗那はずっと、我慢してくれていたのに。
それなのに自分は……悲しんでくれていないのかと、一瞬、彼女の心を疑った。
涙を見せないのは、自分が紗那にとって、大した存在じゃなかったからなのかと、いじけたりもして……。
「ごめん。ごめん紗那。君の心を疑ったりして、本当にすまなかった――!」
オルゴールを抱き締めたまま床の上にへたり込み、紗那はわぁわぁと泣き続けた。
司は彼女の後方に回り込むと、包むように抱き締める。
もちろん、触れることはできない。
それでも、ありったけの想いが伝わりますようにと願いながら、華奢な妻の体を抱き締め続けた。
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