愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

18/24
前へ
/24ページ
次へ
 ……ああ、そうだ。  いつだったか、紗那は俺に、そんな話をしてくれたっけ。  ……そうか、だからか。  だから紗那は、今日まで泣かなかったんだ。……いや、泣けなかったんだ。  声を上げて泣いたら、俺が成仏できなくなると思って。  悲しみを主張して泣き続けていたら、俺が天国に行けなくなると思って……。  どうしてそんな大切なことを、今まで忘れていたのだろう?  紗那はずっと、我慢してくれていたのに。  それなのに自分は……悲しんでくれていないのかと、一瞬、彼女の心を疑った。  涙を見せないのは、自分が紗那にとって、大した存在じゃなかったからなのかと、いじけたりもして……。 「ごめん。ごめん紗那。君の心を疑ったりして、本当にすまなかった――!」  オルゴールを抱き締めたまま床の上にへたり込み、紗那はわぁわぁと泣き続けた。  司は彼女の後方に回り込むと、包むように抱き締める。  もちろん、触れることはできない。  それでも、ありったけの想いが伝わりますようにと願いながら、華奢(きゃしゃ)な妻の体を抱き締め続けた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加