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――それから、どれほどの時間が経っただろう。
泣き止んだ紗那は、ただぼうっと、オルゴールを見つめていた。
彼女の気持ちが和らいだのを感じ、司はそっと腕を解いて体を離す。
前に回って様子を窺い、妻の口元に笑みが浮かんでいることを確認したところで、司はようやく安堵のため息を漏らした。
「ごめんね司くん、泣いたりして。せめて四十九日までは我慢しようって、頑張ってたつもりだったのに……。ごめんね、こんな弱虫で」
紗那は申し訳なさそうに言った後、オルゴールに向かって頭を下げた。
司が見えない紗那にとって、この日のために彼が贈ってくれた最後のプレゼントが、彼の代わりに思えるのだろう。
司は無言で首を振り、柔らかく微笑む。
心で『いいや、君は頑張ったよ』『やはり君は、俺の最愛の人だ』とつぶやきながら……。
「ごめんね、もう泣かない! いつだって司くんは、私の側にいてくれるもの。たくさんの思い出と一緒に……ずっとずっと、これからも私の中で、生き続けてくれるもの」
紗那は明るい顔で宣言すると、オルゴールを机の上に置き、小さな仏壇の前まで歩いて行った。
両手を合わせ、目を閉じて静かに祈りを捧げた後、吹っ切れたかのように満面の笑みを浮かべる。
紗那の様子を見守っていた司は、胸の奥に、じんわりと温かさが広がって行くのを感じた。
フッと微笑み、『もう、大丈夫だよな』と納得したようにつぶやく。
「死神さん、お願いします!」
声を上げたとたん、黒いローブに身を包んだ死神が現れた。
死神は司の顔をじっと見つめてから、念押しするかのように訊ねる。
「未練は断ち切れたんだな?」
司はにこりと微笑み、
「はい!」
清々しい声色で、キッパリと言い切った。迷いのない、澄みきった瞳で。
死神はうなずき、黙って鎌を振り上げた。
司は振り返り、もう一度だけ妻に向かって微笑む。
「さよなら、紗那。またきっと、どこかで」
その言葉だけを残し、彼の幽体はかき消えた。
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