愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 その日から、男の子は毎日のように、店に遊びにくるようになった。  小学生の男の子だ。店の商品を買ってくれることはほどんどない。  年に一~ニ度、数百円のキーホルダーや、母親に贈るプレゼントなどを買って行ってくれるだけだ。  店内を見回ったり、紗那と話をしたりすることが、彼の目的の全てのようだった。  老婆一人いる店の、いったい何が楽しくて、毎日のように通ってくれるのだろう?  紗那は不思議でたまらなかったが、数週間、数ヶ月と経つうちに、 (初めてあの子が店に来た日。一人でオルゴールを聴いている私が、寂しそうに見えたのかしら? だから可哀想に思って、話し相手になってくれようとしているとか……?)  だんだん、そんな風に考えるようになっていた。  きっと、心の優しい子なのだ。  老婆一人を放っておけないと、心配してくれているのかもしれない。 (そうね。きっと、ボランティア感覚なんだわ。老人ホームに通って、話し相手になってくれるような……。フフっ。奉仕精神あふれる子なのね)  ならば、素直に甘えさせてもらうことにしよう。  紗那はやわらかく微笑んで、いつものように店の品々を見て回っている少年に近付き、話し掛けた。
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