愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 嫌な予感は当たってしまった。  司は交通事故に遭い、帰らぬ人となった。  即死だったという。  事故に遭ったのは、夜七時頃。  見通しの悪いカーブで車がスリップし、対向車線を越えて大型トラックに衝突。  側面への衝突だったため、トラックの方は多少壊れた程度で済み、運転手も無事だったそうなのだが。  司の車は衝突した後、さらにガードレールに勢いよく突っ込み、大破。  携帯電話も、身分を確認できるものが入った鞄も、車外に放り出されてしまった。  それらがなかなか見つけられなかったせいで、連絡が翌日になってしまったということだった。  司も紗那も、天涯孤独に近い身の上だ。  遠い親戚くらいはいたのかもしれないが、交流した記憶すらない。  そのため連絡先もわからず、結局、葬式に参列してくれたのは、会社の人達や、数人の知り合いだけだった。  参列者の中には、司の親友である笹倉和樹(ささくらかずき)の姿もあった。  司とは高校からの付き合い。  同じ大学に進み、卒業後は、互いにIT関係の企業に就職した。  就職してからも二人の友情は続いていたが、紗那は、笹倉には数回しか会ったことがなかった。  人見知りの彼女を気遣い、司はいつも、笹倉とは外で会っていたからだ。  司の死を聞き付け、笹倉はすぐに駆けつけてくれた。  紗那の顔を見るなり涙を浮かべ、深く頭を下げてきた。  親友が亡くなったことに対する悲しみは、もちろんあるだろう。   だが、それとは異なる理由で、笹倉は後悔しているように見えた。  その理由が何なのか、その時の紗那には見当もつかなかったけれど。
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