愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 葬儀が終わった後。紗那は笹倉に誘われ、近くの喫茶店に入った。  席に着いてからしばらくして、彼は重い口を開いた。 「実は、司が事故に遭った日のことなんですが。あの日、仕事が終わったら、司と会う約束をしていたんです」 「え?」  思いもよらない話だった。  いつもの司なら、飲みに行く約束などしていたら、必ず前日には知らせてくれていた。  よほど急な話だったというのなら、また別だが。  紗那に一切知らせないまま外で人と会うなど、今まで一度もなかった。  笹倉の話によると。  その日は久しぶりに、二人で飲みに行くことになっていたのだそうだ。  だが、そんな日に限って、仕事が次から次へと舞い込んで来た。  おまけに、トラブルばかり起こる始末で、飲みに行けるような状況ではなくなってしまったのだという。  司が事故に遭ったのは自分のせいかもしれないと、笹倉は悔やんでいた。  自分が早く仕事を終わらせ、待ち合わせ場所に行っていれば、司が事故に遭うことはなかったはずだと。  いや。せめて、遅れるという連絡だけでもしていればと、笹倉は涙を流して悔しがった。  笹倉のせいではない。誰が悪いわけでもない。  強いて言うなら、運が悪かっただけだ。  もしもここに司がいたら、同じように言っていたはずだ。  そう伝えると、笹倉は辛そうに顔を歪め、もう一度深々と頭を下げた。
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