愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 喫茶店から自宅へと戻った紗那は、ダイニングキッチンのテーブルの上にバッグを置くと、ふらつく足取りでリビングへと向かった。  カーペットの上にぺたりと座り込み、放心したように一点を見つめる。  それからしばらくの間、紗那はぴくりとも動かなかった。  そんな紗那を、少し離れたところから、心配そうに見つめる者がいた。  ――司だ。  いや。もっと正確に言えば、司の幽体だ。  彼は死亡した後、幽霊となって、ずっと紗那の側にいた。  自分の死後、紗那がどうなってしまうのか、心配で堪らなかったのだ。  彼は死んだ身。紗那に触れることも、声を届けることも出来ない。  それでも彼は、紗那を見守ることを選んだ。少しでも長く、彼女の側にいたいと願った。  たとえ彼女に、自分の姿が見えなくても。
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