愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 彼が最後に目を覚ました時。  そこは真っ暗な世界だった。 「ここはどこだ? 俺は……何をしていたんだっけ?」  暗闇の中で、彼は必死に記憶を辿った。  自分がどうしてここにいるのか、思い出そうとした。 「おまえは死んだんだよ」 「えっ?」  突然聞こえてきた声に、司は驚いて振り返った。  そこには一人の男が立っていた。背の高い男だった。 「だ、誰ですか?」 「死神だ」  男はぶっきらぼうに答えた。  死神と名乗ったその男の顔は、白い仮面で覆われていた。  黒いローブのようなものを着ていて、背丈以上もある大きな鎌を手にしていた。 (死神? 死神って、本当に大きな鎌なんて持ってるんだな)  頭の隅で思いながら、司は『死神』と名乗る男に訊ねた。 「死神って……。俺、死んだんですか?」 「そうだ」  死神はあっさりとうなずいた。  司は呆然としながら、もう一度周りを見回す。  やはり、そこは暗闇の世界だった。  目の前にいる男の姿だけは、何故かハッキリと認識できたが。 「おまえの魂は、現実世界から、まだ完全には離れていない。まあ、それも時間の問題だがな」  そう言うと、死神はゆっくりと大鎌を構えた。
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