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急に雨が降り出した。
慌てて軒下に駆け込んだ。
店の方に向き直って見ると、それは古本屋だった。
知らない街じゃないはずなのに、見慣れない店だった。
雨はやみそうもない。
時間つぶしに店内に入ってみる。
入口には昔ながらの古本屋らしくレジ台に婆さんが座して居眠りしてる。
鼻眼鏡に、読みかけの本を開いたままで。
店内に客は見当たらない。
丈の高い書棚が並び、古びれた本が所狭しと詰まっている。
『老人と海』、『白鯨』、『かもめのジョナサン』など、お気に入りの書籍がひととおり揃っていることを確認する。
雨はまだやみそうもない。
『失われた時を求めて』の全巻セットが置かれている。
割ときれいな状態で、しかも豪華装丁版。
いやいや、これは持って帰れない。
『薔薇の名前』の上下巻セット。
これもいかにも重そうだ。
『止まない雨』という小説が目に留まる。
雨はまだやんでいない。
結構な時間がすでに過ぎていた。
濡れてもいいから走って帰ろうか。
どこか途中で傘を買えるかもしれない。
そう思った途端に雨がやんだ。
向こうの空では雨雲を抜け出た太陽が輝いている。
ところが店から出られない。
開け放たれた扉の向こう側へ、敷居を越えることができない。
「すみません、おばあさん!」
声をかけても婆さんは眠ったまま。
身体を揺り動かしても目を覚まさない。
どうやら店内に閉じ込められたらしい。
まあいいか、本を読んでいられるから。
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