届けたい音

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 ここは、県立図書館の学習室だ。利用している人たちは、黙々と何かを書き込みながら必死に打ち込んでいた。  きっと今年が受験だとか、資格を取るのに必死だとか、そんな風に解釈しながら私も人のことは言えないまま、受験生として勉強していた。 (ここの応用編、苦手なんだよね・・・・・・・)  行きたい大学の過去問題集を買ってみたものの、中々難しいものであった。分からない時は、学校の先生に聞いている。けれど今日はあいにくの休日。昔に親から教わろうとしたことがある。両親共、なにかと言い訳つけて逃げてしまった。 『学校時代は頭がよかったんだけどね』  そう母親が言うと、父親も急いで首を縦に振った。これはだめだ。諦めた。  静かな学習室で勉強の教え合いなどはないけれども、音楽を聴きながら集中する人もいる。私は集中するときは耳にイヤホンをあてない。  学習室から空は雲一つない真っ青な空だった。  そうだ、とこの図書館に参考資料があるんじゃないかも。そう感じて静かに立ち上がる。  足に何かがあった気がした。いや、当たった感触はあった。  なんだろう、と下を見落としたら、Bluetoothイヤホンの片方だけが落ちていた。誰かのか分からないから、周りに探している人がいないか探して始める。イヤホンだけでも取ろうとしたら、他の温かい感触がして手が重ねった。  誰かの手があったんだ。  ごめん、と肩手で表現していた。そのまま去っていく彼を見つめながら少し気になった。なんで片耳にしかイヤホンつけないんだろう。  片方の音にも届けたい『音』があるのに、片耳でずっと勉強していた彼を思い出した。
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