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(16)エピローグ
それから。
絵を描くことは、わたしと周くん、二人の希望になり、夢にもなった。
「朱音? 急がないと遅れるぞ」
いつもの朝。いつもの通学風景。
駅で待ち合わせた周くんがわたしを急かす。
「ちょっと、待って……」
通勤、通学客でごった返すホーム。見覚えがある人影がよぎった。目深に乗務員の帽子を被り、男とも女とも形容しがたい異質な雰囲気を放つあの人が……。
「どうしたんだよ?」
「ううん。何でもない」
見間違いだったんだろう。まさか、こんなところにいるはずない。
スケッチブックを抱えてわたしは歩き出した。
きっとあの乗務員の姿をした死神さんなら、今のわたしを見て、こう言うのだろう。
『初めて見た景色、その時感じた気持ちを忘れなければ、いつだって“はじまり”に帰って来れます。 今度はうまくいきそうですか? ……いずれまた、お会いしましょう』
〈完〉
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