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「俺じゃダメかな?」
気の利いた言葉一つ出なかったのに、それはするっと出てきた。こんなときに何を言っているんだろう俺は。
「ちがう......」
急いで訂正しようとした。
でも、驚いた村西の顔を見て、もう取り消せないのを悟った。
「俺じゃダメかな?俺じゃ代わりにはならないかな?」
喉の奥がヒュッと鳴るのが分かった。心臓の鼓動の高鳴りだけが、現実を突きつけているようだった。
もう、元には戻れないぞ、と。
村西は今度は、「え……」と戸惑ったような声を出して、下を向いてしまった。こんなときに、こんな表情させてしまうことも、もう情けなかった。
気が付いたら、俺も泣いていた。情けない姿にさらに追い打ちをかけることは、分かっていたが、もう涙が止まらなかった。せめてもの足掻きで、ワイシャツの袖に声を押し付けるようにして泣いた。何の意味も為さなかった。
村西が立って俺の方に向かってきた。
なんて、言われるのか怖かった。いや、何か言われるならまだ楽だ、このまま教室を出て行ってしまうんじゃないか、と思った。この最悪な状態なまま、今日を終えるのが怖かった。
「村西......」
急いで引き留めようと思って、声をかけると村西は何を言うこともなく、俺の方に向かってきた。
そして、椅子に座っている俺の頭をぎゅっとかかえられるように抱きしめられた。
そして一言だけ。
「ごめん......」
あぁ、俺の恋は終わったのだ。でも、不思議と喪失感はなかった。俺の方がごめん。本当にごめん。情けなくてごめん。友達でいられなくてごめん。
五限が始まるチャイムが鳴った。それでも、俺たちはそのままずっと泣き続けた。
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