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 消えた、街の灯りが全部。すべてが暗闇に包まれた黒一色の世界。だけど目を凝らすとすぐそこに向日葵色のリサ。次の瞬間、リサの姿が灯りの中に浮かび上がった。リサは右手に持ったライターの火を点していた。 「ねぇ、線香花火持ってきてるの。やろう」  世界最後の夜に線香花火かよ。心臓ゴムでできてんのかな、リサって。  リサはポケットから細いこより状の線香花火を取り出して、一本を僕に手渡した。そして下からライターの火をあてる。僕の花火がパチパチと音を立て始めると、今度は自分の持つ花火に火をつけた。リサの顔が朧な光の中に浮かび上がる。煙が幻のように顔の横を流れていった。リサがライターを投げ捨てたのか、何かがデッキを転がる乾いた音が短く響いて消えた。  目の前で爆ぜる花火の小さな光の輪が二つ。僕は一心にそれを見つめた。黒い霧がやってくる。それが先か、この小さな火が地面へ落下し消えるのが先か。ジジ、ジジと音が変わる。まるで地球が内に飼うマグマのような小さな小さな球体が二つ、最後の時を迎えようとしていた。  僕の光の球が先に地面へ転がった。続けてリサの球が落ちる。オレンジ色の火はわずかに燻って、闇に溶けていく。静寂だけが僕らを包んだ。  ふいにリサの笑い声が聞こえる。 「タイミングミスったね、こんなことならロケット花火にすれば良かったかも」  どうしてリサはこんな時にまで笑えるのだろう。僕の歯はずっとガチガチと鳴り続けているというのに。 「リヒト、怖いなら手を握ってあげる。手、貸して」  僕は無意識に手を前へ差し出す。その手はたぶん、ブルブルと震えている。わずかのち、熱を帯びたリサの指が僕の手をしっかりと包み込んだ。リサは力強く、だけど優しく僕の手を握りしめてくる。まるで手のひらが心臓になったみたいだ。この期に及んで、僕は後悔している。もっとリサのことを知りたくなった。 「リサ」  僕は確かめるように呼んだ。  手のひらは相変わらず熱に包まれていた。だけどリサの顔はもう暗闇の中にある。声だけがその存在を知らせた。 「大丈夫だよ、リヒト、怖くない、大丈夫」  リサの声は掠れて、もう僕の耳には届かない。 手のひらの温もりだけが、最後の最後まで僕を包み込んでいた。
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