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 僕はリサの隣に腰を下ろす。 「リサ、未来がどうなるかなんてわからないよ」  決まりきっていると思っていた未来にこうして変化が訪れた。僕にとっては、昨夜リサと出会ってから今に至るまで、変化の連続だ。 「これから何が起きて、それが良いことでも悪いことでも、僕らはまだ何も知らないんだ」  リサがこれまでどんなふうに生き、どんな痛みを抱えてきたのか、僕は知らない。  今、目の前で涙を流しながら駄々をこねている彼女はたぶん、昨日までの僕だ。朝なんて二度と来ないと信じていた昨日の僕だ。  きっと僕らは耐えることや、受け入れること、諦めることばかりに長けて、そんなふうに盲目に生きることに慣れて、それが最善なのだと信じてきたのだろう。  だけどもうそれは最善なんかじゃない。  やっとわかった。覚悟ができた。 「ねえ、リサ、山を下りてみよう。街には僕らの他に誰かいるかもしれないし、もしかしたら、この世界に僕らふたりだけかもしれない。確かめたいんだ」 「……どうして? 他人が生きてるかどうかなんて私は確かめたくもない。自分がこうして今、息をしていることさえ苦痛なのに。山を下りるならリヒト、ひとりで下りて」 「僕は、リサと行きたいんだよ」 「僕はこの世界がどうなったか、これからどうなるのか、リサと一緒に知りたい」  そっと手を伸ばして、僕はリサの細い指に触れる。 「リサ、大丈夫、怖くないよ、大丈夫」  小さな子どもに言い聞かせるように、僕は繰り返す。  根拠なんてない。また明日も朝が来るかなんて誰にもわからない。でもこの根拠のない「大丈夫」が、心の底に(いかり)を下ろす。繋ぎとめていく。  昨夜の僕が、リサによって繋ぎとめられたのと同じで。  僕は繰り返した。どんなに時間がかかっても、僕はリサを連れて山を下りる。白い光が世界を包むこの朝に、僕はそう決めたんだ。 (了)
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