悪魔の住む家

黒い部屋

　この家は暗い。
　いや、暗いなんて生易しいものではない。
　黒いと言っていいほどなのだ。いや、実際黒いんだけどさ。

　そりゃ事故物件だって知って借りたのよ。
　だって、格安だよ。
　駅から徒歩５分。特急の止まる駅で徒歩５分。
　当然のことながら駅ビルは充実しているし、駅から家までの間にコンビニは複数件あるし、駅ビルのスーパー以外にも業〇スーパーだって近くにあるし。

　弁当屋はあるし、メックやおしゃれなストーバックスだってある。

　家だって平屋だけど一戸建てで、小さいけど庭もある。
　それで家賃が５万円だよ。

　私は学生の頃からお金がなくてやっと就職した会社だってそんなにお給料は良くないし。
　でも推し活が好きで、色々なグッズが多いし、紙の本が好きで荷物が多いんだから借りるでしょ。その分推し活に回せるもん。

　普通のマンションだと、３ＬＤＫはないと荷物が入らないの。
　駅徒歩５分の３ＬＤＫなんて賃貸だと家賃が１０万は超えちゃう。
　いくら郊外だからって、そんなには家賃は安くないよ。

　頭を悩ませていた私に何軒も物件を紹介してくれていた不動産屋がちょっと顔を曇らせながら
「ここ、事故物件なんですけど、そういうの気にしないんだったらどうぞ。」
　って出してくれたのがこの家。

　見取り図を見せてもらうと、珍しく何枚も写真があって、外の壁も何故か真っ黒に塗ってある。家の中の壁も真っ黒に塗ってある。

　不動産屋の話だとこれまで住んだ人は大抵３か月ほどで
「やっぱり家が暗すぎる。」
　と言って、出て行ってしまうんだって。

　今は、家主がいなくて、最後に住んだ人が亡くなった後、親戚がいくらでもいいから買ってくれ。っていうから不動産屋は建て替えればいいか。ってことで買ったらしい。
　でも、建て替えの工事が入ろうとする度に取り壊しの前に業者が断ってくるので、もう、古いから売るのは無理でも、ペット可にでもして賃貸でいこう。って決めて賃貸で出したんだって。
　とりあえず一度は不動産屋が買っているし、最後の家主さんが亡くなった時も自然死で直ぐに発見されたから最初の借主には一応家主さんは最後は亡くなっています。ってことは伝えて、後はもう報告義務もないしね。

　流石に最初は好立地だし、平屋でも５ＬＤＫはある家だから２０万くらいで貸しだしていたんだけど、何度も人が出ていく上に、ペットが家の中で消えてしまったりして、気味が悪いと出ていく人もいて、段々家賃が安くなって行って・・・
　最終的にその家の中で私の前に借りた人が、浴室で首をつって亡くなったって。
　何で浴室？って思ったら遺書に
「尊い部屋を汚さないために浴室で首を吊ります。」
　って書いてあったらしい。

　だから、ともあれ、部屋の畳とかに変な染みとかもないし、もちろん、畳は変えてあるし、壁紙は元々なくて黒く塗られている所に壁紙を貼ろうとしても、今の科学を持ってもどうしても壁紙がはがれてしまうので、壁はそのまま黒いまま。ということだそうだ。

　不動産屋もあまり頻繁に部屋主が変わるのも困るので、１年以上住むんだったら５万円で。という条件を私に出してきたわけ。
　その条件を出すうえでは、普通の人に話さないことまでちゃんと話して、それでもいいって人に貸すしかないと。
　だってねぇ、一応いくらでもいいから売るって言われたって、一戸建て、駅近、広い。だと、買った時に１憶以上は支払っているから。とも言っていた。

　少しずつでも費用を回収しないといけないからこの破格な家賃にしたんだそうなので。

　私はまぁ、気味が悪いっちゃぁ悪いんだけど、浴室は思いのほか明るかったし、窓もあるし、他の部屋が真っ黒く塗られているのに、浴室だけは明るかったから人がそこで亡くなったって聞いても意外に平気だった。
　いや、もしかしたら、不動産屋でこの家を見せられた時に、もう、変な暗示にかかっていたのかもしれない。