死する運命の第三王子と、最後の魔法使い(上)

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死する運命の第三王子と、最後の魔法使い(上)

6cbe1aac-41d0-406b-9707-ac0145928f63 彼が、髪を切ると言った。願掛けのためにずっと伸ばしてきた御髪を。 「僕の願いは叶ったんだ。」 この国の第三王子である彼と、魔法使い狩りから生き延びた唯一の魔法使いの私。 王家で燃えるような赤毛の男子が誕生した場合、その子は必ずと言っていいほど亡くなる。その赤毛の男子である彼と出逢ったのは、彼がまだ赤子の時だ。 〝王家で一番優れた男子、この国を導くべき者が産まれた時、その子は15才までに命を落とすだろう。何人優れた者が産まれようとも、必ずその者たちは死ぬ。妾を裏切ったこの国は二度と栄えはしない。真の愛よりも権力を欲したそなた達は、永遠に骨肉の争いを繰り広げるのだ〟 この国の妃だった魔女が放った最期の言葉だ。その言葉の通り、賢王たる資質を秘めた者は必ず、15才までに亡くなった。 魔法使いである私が、王家と関わり合う発端は、十数年前まで遡る。森の奥深く、誰とも関わらず生涯を過ごすはずだった私のもとに、彼の母親である王妃は護衛をひとりだけ伴いやってきた。そして、魔法使い狩りを行った人間たちの仕打ちについて泣いて謝り、許しを乞うた。次いで、どうか、息子を助けて欲しいと、もしも助けてくれたなら、自らの命すらもいとわないと、言った。愚直なまでの母の愛を目の当たりにし、私は思わず願いを引き受けていた。 そうして初めて訪れた王城で目にした赤子の彼を、愛らしく尊いと、必ず生かしてみせると、心に誓ったのだ。王家にかけられた魔女の呪いを解くことが、魔法使いに生まれた私に課された、人生を賭けた使命になった。そして現在、彼は14才、呪いは未だに解けずにいる。王妃は若くして先立ってしまった。誰も訪れなくなったこの離れには、少しの使用人と、私と彼しかいない。 「僕は、ずっと、貴方の心が欲しかった。」 「…、…王子」 「命を顧みず、僕を助けに来てくれた魔法使い。貴方と共に過ごした日々は、僕にとってかけがえのないものだ。」 「…っ、私は無能な魔法使いだ」 「ああ…泣かないで。ここ数年の貴方の悲痛な表情が、苦しくて…けれど、僕のために悲しんでくれてるのだと思うと、不謹慎だけれど嬉しくもあるんだ」 そうして気づいたんだ 「貴方の心はすでに僕のものなんだって」 だから最期に僕の髪を切って。 「貴方をこの世で一番愛している。」 薄々、気付いていた。王子の視線の熱に。甘い声に。蕩けるような笑みがどのような意味を持つのかを、知っていた。それに応える資格は私にはないと、そう思っていた。けれど彼は言ってくれたのだ、私を愛していると。彼よりもずっと年上の私が、応えなくてどうするんだ。心だけで満足なのですか、と問えば彼の瞳が熱を帯びた。私はモノを知りませんが、こんな中年ですが、初めてをもらってはくれませんか?私の精一杯だった。その言葉を受け入れてくれた王子は、迷いなく私をベッドに引きずり込んだ。 「…ふふっ、シーツの上の貴方を見るのは、小さい頃こっそり添い寝をしてもらった時以来だ」 「…、っ…王子、罪悪感が」 「罪など何処にもないよ…どうか王子ではなく名前で呼んでおくれ」 「っ、…レジー」 「ああ。エリアス、」 僕の初めても貰って、と彼が深く口付ける。慣れない同士で、舌を絡めて、気持ちが良い場所をさぐり合う。
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