3人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
その後、舞雪と僕の関係はギコちなく気まずいものになった。いや、舞雪はいつも通り話しかけてきてくれる。問題は僕だ。彼に上手く笑顔を返せなかった。
あれから綾羽との関係はどうなったんだろう?自室のベッドに座り、暫く放置したメッセージアプリを開いてみる。そこには僕を心配する綾羽からのメッセージが書き込まれていた。
『ねぇ、どうしたの?なんでメッセージくれないの?』
『あたし、何か気に触ることした?』
『無視は辛い。お願い、答えてよ』
「綾羽……」
僕は彼女に文字で尋ねた。
『舞雪とどうなった?』
『やっとメッセージくれたね。どうなったか舞雪に聞いてないの?』
『聞く勇気がない』
『なんで?舞雪が好きだから?』
『そうだって言ったら?』
『知ってたよ。尚弥の気持ち、ずっと前から知ってた』
『どうして知ってるの?』
『だって、入社してからアンタ舞雪のことばかり書いてたじゃん。普通、分かるでしょ』
『知ってて舞雪と関係もったの?』
『そうって言ったら?』
『軽蔑する』
『軽蔑か。無関心でいられるよりはマシだわ』
『君なんて大嫌いだ』
『奇遇ね。あたしも君が大嫌い』
「最悪だ……」
溜め息を吐いてiPhoneを額にあてる。刹那、研究室がどよめいた。慌てて様子を見にいくと、室長が小さな小瓶に頬ずりしていた。
「やっとできたぞ!これで難病の人々を救うことができる」
その液体は、交代性転換病の患者を元に戻す治療薬だった。舞雪が僕の肩を叩く。
「良かったな。これで、お前の病気が治るで!」
「うん」
頷いた僕だけど気持ちは穏やかではない。だって病気が完治するって、自分か綾羽がこの世から消えるってことだろ?そう気づいたからだ。
だが後日、研究室は落胆に包まれることになる。最初の臨床試験薬通り化合し実験してもマウスに変化がなかったからだ。効果の認めれた治療薬は最初の液体のみ。実験で使った試験薬と、予備のひと瓶だけだ。これでは全員を救うことはできない。
ひと瓶だけ残された試験薬。更に研究が進めれた。だが、一年が経過しても効果のある薬品はできなかった。
そんな時、事件が起きる。研究室からたった一つしかない試験薬が消えたのだ。すぐに監視カメラでチェックする。真夜中に研究室に忍び込み、大切な液体を奪ったのが先輩研究員の高瀬進だと判明した。高瀬は会社を欠勤している。自宅アパートに急行するも留守。行方をくらましていた。
警察に通報。僕達は手掛かりを探すため、高瀬の部屋に入った。床が見えないほどコンビニ弁当の空容器やペットボトルが散乱している。部屋一面に女性アイドルのポスターが貼ってあった。山積みになった大量のCDとDVD。全て、そのアイドルの属するグループのものだ。アイドルの名前は小嶋香里奈。どうやら彼はこの娘の熱狂的なファンらしい。
「同じCDとDVD、ファンってこんなに購入するもんなの?」
アイドルをテレビ画面に映しながら疑問を呟く僕。すると警察の捜査員が言った。
「おそらく握手券が目当てでしょうね」
「握手券?」
「ええ、CDなどを購入すると、アイドルの握手会に参加できる券がついてくるんですよ。一枚につき、だいたい一秒ぐらい。高瀬は六十枚買ってるから、一分間、アイドルと握手できて会話ができるってことになりますね」
この小嶋香里奈と高瀬が試験薬を盗んだ理由は関連している。そう読んだ僕達は香里奈の情報を入手。なんと香里奈は交代性転換病の患者であることが判明した。一日交代で男になる。彼女はこれを売りにしていた。
研究室にて、試験薬はマイナス16℃の環境で保管されている。なぜなら、常温になると四十八時間で液体に含まれるコルゲンと呼ばれる物質が消滅してしまうからだ。
香里奈の握手会は明日の十八時から開かれる。試験薬を持った高瀬は彼女の握手会に現れるだろう。なるべく早く確保したい僕達は、握手会場となる場所に前夜から張り込んだ。勿論、警察も待機中だ。
広大な敷地に設置された十二の四角いブース。アイドルメンバーは十二人。そのブース前にメンバーカラーの立て看板が置かれている。香里奈のカラーは青。
二十四時になる少し前、車内にて舞雪は僕の手を握った。
「タイムリミットは明日の二十四時や。それまでに絶対、俺は高瀬から試験薬を取り戻し研究室に届けるで。せやから安心してな」
「有り難う」
この言葉を最後に、僕は意識を手放した。綾羽に変わったのだ。
次に目覚めたのは空白を一日置いた朝だった。僕はガバッと身体を起こしサイドテーブルのiPhoneを手に取った。(どうなったんだ?)ドキドキしながらメッセージを開く。綾羽からの書き込みがあった。
『薬品は戻ったけど舞雪が高瀬に刺された!』
途端に視界が揺らぐ。僕は急いで出社し、主任に事情を聞いた。主任からの説明はこうだ。
まず、青の列に並ぶ高瀬を見つけたのは綾羽。高瀬と綾羽が激しく争い、高瀬がジャケットの内ポケットからナイフを取り出し綾羽に切りかかる。そこに舞雪が飛び込み高瀬と揉み合いになった。
会場はパニックと化し、そこらじゅうから悲鳴があがる。主任が現場にかけつけた時、高瀬は刑事に確保されていて舞雪が刺された後だったそうだ。
主任はズレた眼鏡のブリッジを人差し指で上げた。
「綾羽は試験薬の小瓶を胸に抱いて震えていた。だからわたしは綾羽を正気に戻すため激を飛ばしたのだ。『時間がない。お前は早く研究室に試験薬を届けろ!』とな。彼女が走って車に乗るのを見届けた後、到着した救急車にわたしも乗り込み矢崎を病院に運んだってわけだ」
全身が恐怖で震える。僕は主任に恐る恐る聞いた。
「舞雪は?彼は無事なんですか?」
一瞬、主任の顔が曇ったような気がする。僕は慌てて質問を変え、彼が運ばれた病院名を聞いた。
「青蘭大学病院……」
自然と白衣が翻る。「おい、ちょっと待て!」と、背後から主任の声がしたけど待っていられる状況じゃない。僕はタクシーに乗り病院へ急行。受付で舞雪の入院病棟を尋ね、ナースステーションへと走る。看護士から部屋ナンバーを聞くと病室の扉をスライドした。
目の前は、白い間仕切りカーテン。個室……。嫌な予感で進む足が怯んでしまう。指も同じ。震える指でカーテンを開く。
「舞雪!」
「おっ?」
予想と違い、僕の目に飛び込んできたのは彼の笑顔だった。
「なんや、見舞いに来てくれたんか?」
あまりの安心感で、床にヘナヘナと座り込んでしまう僕。
「おいおい」
舞雪はベッドから降り、僕の前にしゃがんだ。
「どないした?具合が悪いんか?」
僕は上目遣いを彼に投げた。
「怪我は?」
「大丈夫や。かすっただけやから明日には退院できる」
「明日?」
「せやで。せっかく見舞いにきて貰うたのに悪いな」
「はあ〜」
更に安堵。すると目頭が熱くなり水滴が溢れた。舞雪を失ってしまう恐怖から解放された涙が止まらない。
「まいったなぁ〜」
ツムジで受け止めた彼の声は明らかに困っている。
「そないに泣かんで」
舞雪は、僕が泣き止むまでずっと頭を撫でてくれていた。
研究室に帰ってから、僕は更なる詳細を主任から聞くことになる。高瀬が前々から同僚に語っていたことがあるそうだ。彼は、推しの香里奈にずっと女の子でいて欲しいと願っていた。だから、試験薬を彼女に渡そうとしていたのだ。高瀬の気持ちは理解できるが、僕ら薬品研究者は病気に苦しむ皆のことを考えなければならない。目指すのは多量生産なのだ。
最後に主任から聞いたのは、どんな状況で舞雪が刺されたかだ。舞雪が運ばれる救急車の中でこう言ったそうだ。
「高瀬は、アイツを刺そうとナイフを振り翳したんや。瞬間、頭が真っ白になってしもて、気ぃついたら俺はアイツを抱きしめてた。アイツが死んだら俺かて生きていけへんもん」
「そうですか……」と僕は下を向く。もう、舞雪のことは諦めなきゃいけない。と思った。舞雪は綾羽を、綾羽は舞雪を……二人は完全に両想いだ。
それからは、舞雪とも綾羽とも自然に会話できるようになった。舞雪はすっかり元気になり、普段通りおちゃらけてくる。僕は、ちゃんと笑えるように努力した。
綾羽とはメッセージのやり取りを毎日している。何気ないトークが続いたが、ある日、彼女はこんなメッセージを残した。
『片想いって辛いね』
『綾羽は僕とは違う。片想いなんてしたことないだろ?』
『してるよ。ずっと……』
『舞雪に告白してみなよ。両想いだから』
『舞雪ね……。そうだね。ってか、アンタにいいこと教えてあげる』
『なに?』
『高校時代のこと。アンタ、東山大輝が好きだったでしょ?』
『ええーっ!知ってたの?』
『知ってたよ。だって彼のことばかり書いてたじゃん。アンタって分かりやすいのよ』
『君に、あっさり取られたけどね』
『大輝はね、他の娘から告白されると、皆に言いふらして自慢する嫌なヤツだった。もし、アンタが告ってたら、彼はアンタを笑い者にしたと思うよ』
『そうだったんだ。気づかなかったよ。でも君は大輝から告られて付き合ってたよね?彼が好きだったからでしょ?』
『それは違う。大輝がアンタを根暗のオタクってバカにしたから付き合った』
『なんで?』
『悔しかったから。本気にさせて振ってやった時の彼の傷ついた顔は傑作だったよ。マジで笑えた』
『ってか、なんで?』
『何が?』
『どうして僕がバカにされると君が悔しいの?』
『いちいち、それ聞く?』
『聞きたい』
『アンタが、あたしの二分の一だからよ。バカにされたら普通は悔しいでしょ!』
「綾羽……」
胸がジーンと熱くなった。彼女が初めからちゃんと僕を受け入れてくれてたと知ったからだ。なのに、僕は……。二人は二分の一で一人前。これからは、ちゃんと彼女を受け入れよう。そう思った。
治療薬の大量生産が叶ったのは、翌年のことだった。このことはニュースでも大きく報じられることになる。僕は室長から治療薬を手渡され説明を受けた。
一、有効期限は、四十八時間。
二、小瓶のフタを開き頭から液体をかける。
三、自分で液体をかけるのは不可。
四、自分以外の誰かにかけてもらうこと。
五、男女の区別は治療薬をふりかける他者の心に権限がある。
僕は、その治療薬を両親に渡し「綾羽を選んで」と懇願した。だが、両親は酷く混乱。泣きながらこう言った。
「尚弥も綾羽も、わたし達にとったら大切な我が子。選べるわけないじゃないか!」
そうだよな、って思う。高校生からだったけど、綾羽は家族なんだから選べるわけがないんだ。でも、最近になり発表された研究論文を読んだ僕の心は複雑だ。
交代性転換病患者の寿命は極端に短い。自身の二分の一、綾羽には長生きして欲しい。考えた末、僕は夜、一人暮らしする舞雪のアパートを訪ねた。
彼は綾羽を愛してる。舞雪なら迷わず綾羽を選ぶと思ったからだ。
「ホンマに俺でええの?」
舞雪は瞳を泳がせて小瓶を胸に抱く。僕は静かに頷いた。
「タイムリミットは明日やろ?綾羽と話したいから明日まで待ってや」
「うん」
玄関先、僕は「じゃあ」と背を向ける。すると「ちょい、待ち」と彼に腕を掴まれた。
「俺が選ぶヤツはもう決まっとるし、選んだ時点で、俺の気持ちはバレバレや。バレたら俺は止まらへんよ。いやや言うてもソイツを強引に奪うで。俺に選択権を与える言うんはそういうこっちゃ。それでええの?」
(バカだなぁ〜、舞雪は……)と思った。(綾羽も舞雪が好きなんだよ)
帰り道、東京には珍しい雪が舞う。夜空からヒラヒラと落ちてくる粉雪に、僕は二人の幸せを願った。……て、そんなの嘘だ。街灯の下、オレンジに照らされた路上に涙が落ちる。
「ぐっ!うぐっ、うわああぁーっ!!」
僕は汚い人間。二人の幸せなんて願えない。二人が結ばれる姿なんか見たくない。……だから、消えるしかないんだよ。僕は二人にとって邪魔な存在にしかならないんだから。
今日の二十四時が僕のタイムリミット。最後、僕はiPhoneを取り出し綾羽にメッセージを残した。
【大嫌いで大好きだったよ。今まで有り難う。さようなら】
◆
次に目覚めた時、僕の視界に映ったのは舞雪だった。
「えっ、あれ?」
瞬きを繰り返す僕に、舞雪は上からクスリと口角を上げる。
「どや?気分は?」
「って、ここはどこ?」
「俺の部屋やで」
「ちっ、ちょっと待って!」
思考がパニックだ。背中のバウンドに気づき身体を起こす。口から出たのはマヌケな質問だ。
「なんで、君のベッドに寝てるの?」
「なんでって治療薬、頭からかけたら気絶したんや。せやからベッドに寝かせたんやで。俺、間違えてへんよな?」
「治療薬……」
サアーッと顔から血液が落下した。そうだ。僕は目覚めてはいけない。ダメなはずなのに。深緑のベッドカバーをギュッと握る。
「今、何時?」
「二十四時、五分過ぎ」
「僕が目覚めるまで誰がいたの?」
「そんなん聞かんでも分かるやん」
「綾羽……」
思わず唇を噛んだ。
「綾羽に治療薬をかけたの?」
「せや」
「なんで彼女じゃなくて僕が目覚めるんだよ!」
五分前、綾羽は消えた。彼女は、もう……いない。
僕は涙で滲んだ視界を、ベッド横に立つ舞雪に振り上げた。
「君は綾羽が好きじゃないか!なに間違えてんだよっ!もう、取り返しがつかないじゃないかっ!」
「あー、うるさ」
彼は右耳を人差し指でほじった。
「別に間違えてへんよ。お前を望んだのは俺や」
「僕を?なんで?」
「お前さ、どこまで鈍感なんや。俺はずっとお前にアピールしとったぞ。一つも分からんかったんか?」
「わっ、分かんないよ!だって綾羽と寝たじゃないか!」
「アレは、お互いの目的が一緒やって知ったから一度だけって約束で抱いただけや」
「目的ってなに?」
「めんどくさっ!まず、iPhoneのメッセージ読めや」
僕のiPhoneをベッドに投げる舞雪。僕は拾い上げ、メッセージアプリを開いた。僕の、さようなら。の下に彼女のメッセージが書き込まれている。
【あたしが尚弥を嫌いだったことは一度もない。最初から最後まで、あたしにはアンタだけだった。ずっと片想いだったけどね。アンタは太陽、あたしは月。分かってたけど、一度でいいから尚弥に会いたかった。触れたかったよ。舞雪との関係、意地悪してごめん。複雑にしちゃってごめん。邪魔しちゃってごめん。消えるのは、あたしの方だよ。だから最後にキチンと告ろう思う。尚弥、あたしはあなたを愛してる。バイバイ】
「なんだよ、これ……」
指が震え、iPhoneが逃げるようにベッドに落下した。
「こんな、こんな告白……」
こんな切ないバイバイあるかよ!
「尚弥」
肩に置かれた舞雪の手。僕はその手に自分の手を重ねた。
「僕らは、ずっと二分の一だった」
「せやね」
「綾羽が太陽で僕が月だった。僕は彼女が眩しかった。だって彼女は僕にないものをいっぱい持ってたから」
「おんなじこと、綾羽が言うてたわ。彼女は俺と話すたび、お前のことばかりやった」
舞雪から語られた綾羽。それは僕の知らない可愛い女だった。
『尚弥はね、肉が好きなの。だから、あたしも肉を食べるようにしたんだぁ〜』
『尚弥の好きなアニメ、みーんな観ちゃった。でも彼には内緒。だって恥ずかしいんだもん』
『ねぇ、舞雪、君の話も尚弥だらけだね。尚弥が好きなの?』
『舞雪、あたしは尚弥に決して触れられない。だから、せめて尚弥が好きな君に抱かれたい。お願い、一度だけでいいから』
もう、ベッドカバーは涙でぐしょ濡れだ。
「うっ、ああっ……」
堪えきれなくて嗚咽が漏れる。その時、僕の視界が一気に暗くなった。舞雪が僕を抱きしめたんだ。涙も嗚咽も加速するばかりで止まらない。僕は彼の背中に両手を回し大声で泣いた。
「うわあああああーーっ!!!」
例え恋愛じゃなくても、僕は彼女を愛してた。綾羽は、僕の家族だったんだ。
やっと涙が下火になった時、舞雪は僕を抱いたまま言った。
「お前には酷なことかも知れへんけど、自分の選択に俺は後悔してへんよ。最初から心は決まってたから……」
「舞雪……」
少し距離を開き、顔を上げた僕の頬を優しく包む舞雪の手は大きい。そして温かい。
「ずっと、お前を愛してきた。これからもだ」
前髪が横に流れ、切れ長い瞳が僕を真っ直ぐに捉える。また、あの目。目の奥に蘭と宿る炎が見えた。
今まで怖いと感じた瞳。だけど今は怖くない。「お前の返事は?」と彼が聞く。でも、その返事を返す前に唇が塞がれた。
「うっ、あっ、やっ……」
何度も何度も角度を変えて塞がれる唇に息も耐え耐えになってしまう。
「ちっ、ちょっと待って」
彼の胸を押し返す僕。
「答えを……」
「アカン、待てへん!」
舞雪は僕をベッドに押し倒し覆い被さると、僕の顔を挟んで両手をついた。
「俺、言うたよな?いやや言うても強引に奪うて」
逆光でも分かる。彼の表情は苦し気で余裕がない。グチュグチュといやらしい音。絡み合う舌と舌。離れたと思えば、その舌は首筋を舐め、鎖骨に落下して、更に下へと落ちてゆく。
「あっ……」
まるで獣に食べられるかのような愛撫。もう、理性は保てない。僕だって彼が欲しいのだから。今の僕を鏡に映せば、きっと瞳は炎で燃えているはず。自分の中にも獣はいる。多分、狼だ。
君がいけない。君が火を灯した。
僕は反転し、舞雪を下にすると唇に襲いかかった。きっと僕の方が濃厚。同時にワイシャツのボタンを引きちぎるように外した。首筋から乳首へと舌を這わせてゆく。あまりの激しさに彼は戸惑いの表情を見せる。
「無理だよ。止めるのは」
白い肌から唇を離すと唾液が銀の糸を引く。僕は下からニヤリと笑み、舞雪のズボンベルトを外した。
僕が彼に答えを返せたのは一つになった時。ギシギシと軋むベッド。重なり合う手がクロスに変わり互いを強く握った。荒く激しく絡み合い、混じり合う呼吸と共に、僕の放った言葉が空気に舞う。
「愛してる」
この言葉に僕は命令を下す。早く落下して。そして彼の心臓を突き刺して。その心が逃げてしまわぬよう固定して。……永遠に。
もう僕は君に心臓を貫かれたんだよ。……半分。二分の一の時に。
最初のコメントを投稿しよう!