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第13話 父の望み
『ハァッハァッ……。し、死ぬかと思った……』
それを聞いた父さんは、ハハハと軽い感じで笑っていた。
「大袈裟だな。結晶から抜け出す為に〝グルヴェイグ〟の出力を少し上げただけだろ? それくらいでへばってたら良いパイロットにはなれないぞ」
『わ、わかって――ゲホッゲホォッ!』
イグニスは思いっきり咳き込んでしまった。
シンクロ率が上がった瞬間、身体が燃えているように熱くなって、酸欠状態のままランニングマシンの上で走っている状態に陥っていたのだ。
「ま……初めてシンクロしたわりには上出来だな。これでマリウスが〝悪魔〟を倒してくれてたら、イグニスにも負担をかけなくて良いんだけど。最後まで気張れよ、イグニス」
父さんは機嫌良さそうに笑っていたが、イグニスは息も絶え絶えになりながら、『へい……』と力無く答えた。
『そういえば、十年以上ぶりに人の身体に戻ったわけだけど、オーブと人の身体じゃ全然違うのか?』
ふと感じた疑問だった。イグニス自身はオーブになって、今のところ不自由さはあまり感じてはいなかったが、やはり人の身体が良いなと感じていた。
「全然違う。やっぱり、人の身体って最高だなって思ったよ。久しぶりにアマテラス産の味噌汁が飲みたくなった」
父さんの言葉に驚いたイグニスは『久しぶりに食べる物が味噌汁で良いの?』と聞く。
「なんか人の身体に戻った途端、腹減っちまってさ。サクラが作った味噌汁の味を思い出して、急に食べたくなったんだよ」
サクラは自分の母親の名前だったので、イグニスは少しぎこちなく『か……母さんは料理が上手だったの?』と聞くと、「めちゃくちゃ上手だよ」とすぐに返ってきた。
「懐かしいな。サクラの料理は美味くてあったかくて最高だった。俺もサクラの真似をして料理をした事があるんだけど、指が切り傷だらけになったのを見て、めちゃくちゃ怒られたよ」
イグニスは少し羨ましく思って『ふぅん、そうなんだ……』と言ったきり黙り込んでいると、父さんは「あのさ」と照れ臭そうに話を切り出す。
「俺、自分の身体を取り戻したらやりたい事があるんだ」
『やりたい事?』
イグニスが聞くと、父さんは大きく頷いた。
「一つ目は真っ先にお前を抱きしめる事。二つ目は行方不明になったサクラを探し出す事。三つ目は家族皆でサクラの料理を食べる事だ」
それを聞いたイグニスは少し驚いた後、『あ……』と言葉を漏らす。
胸がなんだかギュッとなって、声が上手くだせなかった。今、人間の身体だったら、目に薄らと涙が滲んでいたかもしれない。
「どうだ? 家族想いの良い父親だろ?」
多分、湿っぽい空気になるのが嫌でワザとそう言ったのだと思う。そう察したイグニスは『今の発言は必要ないと思うけど?』と冗談っぽく返すと、父さんは「まぁ、そうだな!」と大きな声で笑った。
「さてと、もう少しで目標地点に着くはずだ。あれだけいた〝悪魔〟の大群もいないし、マリウスとニコが全部片付けてくれたかな」
確かにあんなにいた〝悪魔〟がいなくなっていたので『あれ、本当だ……』と同意するが、イグニスは空気が騒めくような違和感を感じ取っていた。
『……なぁ、父さん。さっきから変な感じがするんだけど』
「うん? どうかしたのか?」
『んー、上手く言えないんだけどさ。身体がないはずなのにビリビリするんだよね。なんかこう……さっきから空気が震えてるみたいな感じでさ――』
イグニスは話してる途中で黙り込んだ。
遠くから『マリウス! マリウス、返事をして!』というニコの泣き叫ぶ声が伝わってきたからだ。
『父さん、ニコが――』
イグニスが話しかけると、父さんも少し遅れてニコの声に気付いたのか「あぁ、早く行こう!」と返事をし、操縦桿を握る手に力を込めた。
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