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「…ねぇ、この街も危ないの?」
「さぁ。この国の政府は破綻していて、国民に対する情報なんて1つもないんだ。こんな国に君を住ませる訳には行かない。」
…だから、彼は私を元の世界に必ず戻るように言ってくれてたんだ。
「君との時間は幸せそのものだったよ。絶望しか無かった僕の唯一の希望だった。まさか正体がパラレルワールドの自分だとは思わなかったけどな。」
「ねぇ…。」
「ん?」
私は彼の手をぎゅっと握りしめた。
「私の世界に来ない?私の世界で、私と一緒に暮らさない?」
「…でも、君の世界に君が2人いるのは神が許さないよ。」
「そんなこと…。私がこの世界に来たのは、きっとあなたを救うためだと思うの。」
私は彼の手を引っ張って立たせると、互いに服を着て、例の一枚岩を目指した。
私が彼の手を引き走り出した瞬間、遠くで爆発音がした。
「え?」
足を止めて振り返ると、遠くに黒い煙がいくつも上がっているのが見えた。
「…ついにこの街にも侵略の手が来たのかもな。」
「急ごう!」
私は再び彼の手を引き走り出した。余り乗り気でないのか、彼の足取りは重く感じた。
「あなたの正体が私であっても、あなたと私は違う人物よ。私はあなたが愛おしい、この気持ちは変わらないもの。」
「…僕もそれは同じなんだ。」
「だったら、生きて!私と一緒に!もし、あなたを私の世界に連れて行ったことで私が消えることになったとしても後悔はしない。このままあなたと別れる方が絶対後悔するもの!」
私たちは息を切らしながら、一枚岩に辿り着いた。
再び響き渡る爆発音に私は耳を塞いだ。
「…近くなったな。」
「ねぇ、早く!」
私は彼の手を引き、水溜まりを覗き込んだ。
しかし、いつもみたいに意識が遠のく事が無かった。
「…何でよ。」
彼はそっと私の手から離れた。その瞬間、水溜まりに陽光が射し込み輝き出した。
「…やっぱり、神は僕がこの世界から出ることを許さないよ。」
彼は立ち竦む私の背中を優しく押した。
「君を忘れないよ。僕は君と会えて幸せだった。この絶望しかない僕に希望を与えてくれた、それだけで君がこの世界に来た理由になるよ。本当にありがとう。」
私は大粒の涙を流しながら彼に抱きついた。
「君には君の世界がある。さぁ行きなさい。僕はまた君に会えることを目標に必ず生き延びる。だからまたいつか…ね。」
彼は私の頰を優しく撫でると、私を水溜まりの方に向けた。
「また、会えるよね?」
「あぁ勿論だ。」
私は彼の微笑みを背に、輝く水溜まりをそっと覗き込んだ。
自分の世界に戻った私は、壁に吊るした白いワンピースを見つめて、涙を拭った。
…いつか、また…。
ー fin ー
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