雨上がりの恋人

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見た目は普通の水溜まり。多分地面が元々凹んでいたのだろうか、2メートル四方はあろうかという大きさがあり、私はその水溜まりの前で足を止めた。覗き込んだ水溜まりには、当たり前だが私が映っていた。 「…あれ、私。」 その時、感覚が戻ったというか、我に返るとはこういう事かという不思議な感覚を経験したことを覚えている。 水溜まりに映った私は水面に揺られて少し歪んで見えた。 「…なんで私ここに…っ!?」 私はあまりの衝撃にその場で固まってしまった。水溜まりに映っている私が明らかに私とは違う動きをしていたからだ。水溜まりの中の私は、私とじっと目を合わせたままゆっくりと手招きをしていた。 非現実な出来事に私は恐怖心を抱いたが、気が付くと水溜まりの中の私に向かって、右手を伸ばしていた。 次の瞬間、水溜まりから飛び出してきた手に右手を掴まれ、そのまま水溜まりの中に引き摺り込まれてしまった。その瞬間、視界が真っ暗になった。 再び視界に光が射し込んできた感覚がしたので目をゆっくり開けると、私は見知らぬ街にいた。 ププーッ!! 背後から突如クラクションが鳴り響き、振り返るとトラックが私に迫っていた。 …え?私、死ぬの? 諦めかけた瞬間、誰かに身体を突き飛ばされ、トラックは私のスレスレを通り過ぎていった。 「はぁ…はぁ…あれ?私…生きてる?」 「大丈夫?」 男性の声が聞こえた方を振り向くと、私と同い年くらいのスラリとした男性が私に手を差し伸べていた。 それが私と彼との出会いだった。
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