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「あの…助けていただいてありがとうございます。」
「咄嗟だったので、乱暴に突き飛ばしてすみません。怪我は?」
「全然大丈夫です。」
「…でも、全身びしょ濡れですよ。」
「え?」
私は彼の言葉で初めて自分が頭から服まで濡れていることに気が付いた。まるで服を着たままプールにでも飛び込んだ姿だった。
「家はこのへんですか?」
「あ、その…ここが何処だか分からなくて…。」
「見知らぬ街の道の真ん中でトラックに轢かれるところでしたが…何か複雑な事情でも?」
私は頭が混乱して何も答えられないままうつ向いた。
「とりあえずその濡れた服のままは良くない。僕の家はすぐそこなんだ、着替えを貸すから来るかい?」
私はこの見知らぬ街で濡れたまま彷徨う覚悟が出来ずに彼の家に行くことにした。案内されたのは近くのアパートだった。
「あの、元カノが置いてった服なんだけど、サイズ感は似てると思うから。」
彼は白いワンピースを差し出した。
「…いいんですか?」
「勿論、何となく捨てずにいるだけですから。」
彼は私にワンピースを手渡すと気を遣って外へ出ていった。着替えた私が玄関から姿を現すと、彼は私をじっと見て固まった。
「え、あの…変ですかね?」
私の問い掛けに、彼は首を横に振った。
「凄く似合って…綺麗です。」
「あ、ありがとうございます。」
私は恥ずかしくなった。
「家へは帰れそうですか?」
「多分、大丈夫です。スマホもありますから。この服はクリーニングして必ず返しに来ます。」
「いや、その服はいいです…あ、いや、じゃあそれでお願いします。そうすれば、もう一度あなたに会えますから。」
「え?」
彼は優しく微笑んでいた。その微笑みに心奪われた私は顔を赤らめながら頭を下げて、アパートを後にした。
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