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自分の位置を調べるためにスマホを取り出した。
「良かった、防水だから壊れてはないみたいね。…あれ?」
電波は圏外だった。こんな街なかで電波が無いなんて、やっぱりスマホが壊れたのかと思い意気消沈した。
「…これじゃ何も調べられない。」
仕方なく私はどこを目指すでもなく歩き出した。道路の看板などを目印に帰り道を考えれば良いと思ったのだ。しばらく街なかの入り組んだ道を思い付くままに進んでいたが、看板があるような大通りには中々辿り着けず、焦りを隠せなくなっていた。
「…ほんとにどうしよう。」
歩き疲れた私がその場で座り込むと、背後に気配を感じた。
「やぁ、また会ったね。」
「あ。」
さっきの彼だった。私が恥ずかしがりながら事情を話していると、彼はくすくすと笑い出した。
「そんなに歩いたんだ。でも、さっきの場所から大して離れてはないよ。ほら、あの赤い屋根の建物がさっきの僕のアパートだよ。」
彼が指差したのは、ここから僅か100メートル程先の建物だった。
…私は病的な方向音痴だった。ぐるぐる歩いている内に元の場所に戻ってきてしまったのか。
恥ずかしさと情けなさ、それからこれからどうなるんだという恐怖で、私がうつ向いていると、彼は下から私の顔を覗き込んでニカッと笑った。私は驚いて思わず顔を上げると彼は大笑いしていた。
「か、からかってます?」
「いや、違うんです、ごめんなさい。まずは気持ちをしっかり持たないと。そのためには落ち込むのはやめましょ。ね。」
再びのあの微笑みに私は思わず目を逸らした。
再び彼のアパートに案内された私は、神社の水溜まりの話をした。記憶の断片を辿々しく話すことしか出来なかったが、彼は真剣に話を聞いてくれた。
「…急にこんな話してごめんなさい。多分夢とかその類だと思うんだけど…。」
「…水鏡は不思議な世界に通じる入口、聞いたことがあるな。」
「え?」
彼は紅茶を一口飲むと私の目をじっと見つめて話を始めた。
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