届けたい反骨精神

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「最近、異世界転生なんてのが流行りだけどねえ。どうする?」 今僕の目の前には、いかにも事務員というようなスーツ姿のおじさんがいた。 おじさんは、僕は事故で死んだという客観的事実を教えてくれた。 そして僕を轢いたトラックの運転手さんと、僕が助けた子のお母さんの心の奥を覗かせてくれた。 「なんにしろ、君の死亡は決定事項ではなく突発的なこと。 つまり運命ではなく潰えてしまった命にあたる。 そういう命には、特権を与えることになっているんだ」 僕は溜め息をついた。 そうか。 僕が助けた男の子が無事で本当に良かった、とはあまり思われていなかったのか。 なんだか少し残念だ。 「もう君のご家族にも連絡はいってるだろう。 ご家族の心も見るかい?」 「いや……いいです。 それより、特権って具体的になんですか。 そちらの説明をお願いします」 淡々と返す僕に、スーツのおじさんは苦笑した。 「君はなんだか達観してるねぇ」 「クソみたいな人生でしたからね。 人の役に立って終えられるなら、まあ本望です」 親には申し訳なかったな、とは少しは思うけど。 だけどもう、息が詰まるような人間関係や置かれたその環境に、僕は耐えられなくなっていたんだ。 「……オススメは転生だけど。 異世界だったり、過去だったり、未来だったりね。 転生以外にも、なにかこの世に影響を与えることも出来るよ。 大きすぎる影響は却下だけどね」 「それじゃあ。 僕の命、存在と引き換えでいいので。 さっきの事故を無かったことにしてください」 僕は即答した。 トラックの運転手さんの気持ちも、僕が助けた男の子のお母さんの気持ちも、僕は決して無下には出来ないものだと感じていた。 「……たとえ、今の事故が無くなったって。 あの運転手もあの母親も、幸せになれるかなんて分からないよ? そこに、君の全てをかけてしまうのかい?」 「……あの運転手の娘さん。 いじめられてる僕を助けてくれたことのある先輩です。 彼女が悲しむなんて嫌です。 それに、さっきのお母さん。 どことなく僕の母親に似ています。 やっぱり、あのお母さんが今回のことで辛い思いを背負っていくなんて、僕が嫌なんです」
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