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―――冗談じゃない。
たしかに俺は連日の過労でしんどかった。 それでも栄養ドリンクでドーピングして、なんとか頑張ってたんだ。 別に眠気を催していた訳でもない。 異常なんて何も無かった。
よくよく現場を見てくれ。 どこをどう見たって、見晴らしは悪くなんかない。 ……それなのに。
幼い子供とは突然に走り出す生き物であるからして、車を運転する者は四六時中神経を張り詰めてそれに備えていなければならない、それを怠った俺が悪い、と?
ふざけるな、傍に母親が着いていたんだろうが。 母親の管理が行き届いてなかっただけじゃないか。 俺は青信号で普通に走っていただけだ、自慢じゃないが、ずっとずっとゴールドドライバーだったんだ。 ……それなのに……っ
トラック運転手の俺が、全部……全部悪いのか?
ガキがボールを追いかけて飛び出してきた。 近くにいた中学生か高校生の兄ちゃんが、それに気がついて身を呈して庇った。 ガキは軽い擦り傷ですんだらしいが、兄ちゃんは即死だった。 そうだ、俺が運転していたトラックが彼を轢き殺したのだ。
俺の時は止まってしまった。 異物を車ではねた時の嫌な感触が体に染み付いてしまったようで、たまらなく気色悪い。 これから先、ずっと魘されそうだ。
……いや、俺の時が止まるだけで済むのならまだいい。 俺には家族がいる。 娘だってお年頃、何かとお金も入り用だ。
俺の家族は、人殺しの家族という汚名を背負ってこれからの人生を過ごしていくことになるのだろう。 不甲斐ない父親のせいで、娘は結婚する際にもそれを引き摺ることになるのだろう。
いや、まずは当面の金だ……今の会社は当然のごとく解雇されてしまうのだろうから……あぁ、あぁ俺の人生……詰んだ……!
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