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「……イズ!?」
ラーファに名前を呼ばれ、イズははっと我に返る。
次の瞬間、足が勝手に動いていた。一刻も早くこの場から離れようと、もつれながらも前に進む。
(ラーファ様が、ラーファ様は、侍女と……いえ、従者と、男の方と……?)
イズの頭の中で嫌な想像が駆け巡る。
何かの間違いであってほしい。そう願っても、先ほどの光景が邪魔をする。
イズは寝室に駆け込み、勢い良くベッドに倒れ込んだ。
(屋外であんな、男の方と、屋外で、屋外で……。ということはやはり、わたくしとの婚姻は世間体を保つためのもの?)
偽装結婚であると感付いてはいたものの、あんな形で突きつけられるとは思ってもみなかった。
「……ぅ」
イズはくしゃくしゃにゆがんだ顔を枕に押し付けた。声を上げて泣けば人が来てしまうかもしれない。みじめな姿を誰にも見られたくなかった。
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