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気持ち悪いなんて
甘井呂と話してから、不思議なことに諏訪の体調は少し回復した。
だから、
「病院に行け」
という言葉がずっと頭に引っ掛かって、いかないといけないと掻き立てられても、気持ちを押し込んで過ごせていたのだが。
数日経ったらまたガクンと体調が落ち込んだ。
胸の奥がかき混ぜられるような違和感とずっと付き合わなければいけない。
(そろそろ限界かな……くっそー部活休みたくないー)
昼休みに足を引きずるように購買へと向かいながら、諏訪は腹をさすった。
熱もなければ咳などの風邪症状もないし、腹を下しているわけでもなく、動ける。
諏訪の基準では「まだいける」のだ。
甘井呂の言葉が気になるだけで、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
食欲は全く無いが、食べなければ部活まで保たない。何を食べようかと頭を働かせていると、
「えーいいじゃん。Subってそういうのがうれしいんだろ? 気持ち悪ぃー」
「上手にできたら褒めてやるからさー」
会話の一部を聞くだけで不快な気分になる、人を小馬鹿にしたような調子の声が聞こえてきた。
目を向ければ廊下の端で、特に隠れることもなく三人の男子が一人の小柄な男子を囲んで笑っていた。
「おーい、何やってんだ?」
「す、諏訪」
「なんでもねーよ、な!」
こういうのは堂々と声を掛けるに限る。
少しでも後ろめたいことをしていれば、よっぽど強い意志がなければ人は引き下がるものだ。
「強そうな体育会系」というイメージを与えるらしい「サッカー部の副部長」という肩書きも手伝って、薄ら笑いを浮かべていた男子たちは慌てて散っていった。
「人の第二性に興味津々とか小学生かよ……って、佐藤だったのか」
「諏訪……」
男子生徒たちに囲まれて見えていなかったが、こちらを見上げているのは毎日顔を合わせているサッカー部員だ。
諏訪はしょんぼりと眉を下げてか細い声を出す佐藤のすぐそばに寄る。
すると、佐藤は小さくため息を吐いた。
「やっぱり気持ち悪いよね、Subなんて」
Subには「支配されたい」「尽くしたい」という性質があり、それは「いじめられたい人間である」と勘違いされやすい。
だから先ほどの男子生徒たちのような言動に繋がってしまうことがあるが、諏訪から言わせればあれはただの口実だ。
第二性が何であるかなど関係なく、あの手の輩は自分より弱いと思えば軽い気持ちで攻撃する。
諏訪は微笑んで佐藤の肩を柔らかく叩いた。
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