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「あんなやつらの言うこと気にすんなよ」
「……あいつらだけじゃないよ。唐渡も」
「唐渡?」
「あ、な、なんでもない……」
視線を落とした佐藤が言い淀むのを見て、深入りしていいのか諏訪は悩んだ。
(酷いPlayだったのかなぁ……)
先日のSub dropのことといい、唐渡と佐藤の間には何かあったのだろうか。
サッカー部内では今までなかったから、諏訪がSub dropを目の当たりにしたのは初めてだったが。
実は唐渡がPlay相手をSub dropさせてしまったのは一回や二回ではない。
外見が良く目立つため校内で人気の唐渡は、様々なSubを相手にしているとの噂だ。でも、ことごとくSub dropさせてしまうことももっぱらの評判だった。
部長の鈴木に「退部になる」と脅された理由もそこにある。
(毎回反省はしてるし、わざとじゃないんだろうけど……俺、Playのことはよくわかんないしなー)
迷ったが、唐渡や佐藤が自分から話したいと思うまで諏訪は何も言わないことにした。
変に口を出して余計こじれても困る。
それよりも「気持ち悪い」と第二性をなじられたことをフォローすべきだろう。
諏訪はガックリと項垂れている佐藤の頭に手を乗せた。同い年でも童顔で小柄な佐藤には、ついつい後輩にするようにしてしまう。
「俺、第二性のことは教科書程度の知識しかないけど」
部室で覗いたPlayをこっそりと思い出す。
いじめるとかいじめられるとか、そんなものとは対極にあった。
ひたすら優しく甘い空気で、ドキドキした。
諏訪が甘井呂にしてもらったように、佐藤に乗せた手を動かす。
頭を撫でてもらうなんて、高校生になったらなかなかしてもらう機会がない。
照れ臭いけど心があったかくなるし気持ちが良いのを、甘井呂が教えてくれた。
「ちゃんと出来たなって褒めてもらえるのは嬉しくて当たり前だろ?」
「優しいーっさすが俺たちの副部長ー君のおかげでサッカー部は平穏だー!」
「頭強い! 頭強い!」
目を細めた佐藤がグリグリと頭を擦り付けてきて、こそばゆいを通り越して手のひらが痒くなる。
ふざけられるようになって良かったと、二人でゲラゲラ笑っていると。
「邪魔」
低く冷たい声が上から降ってくる。
端っこにいたはずなのに、じゃれているうちにはみ出してしまったらしい。
二人は慌てて廊下の隅に寄った。
「ごめんな……あ!」
「三年って思ったよりガキだな」
振り返って謝罪した先に、ポケットに両手を突っ込んで立つ甘井呂がいた。
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