運が悪い

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運が悪い

(やべぇ……気持ち悪い……)  諏訪は今、高校から駅への通り道である商店街を歩いていた。  アーケードの下、下校したり友人と遊んだりする近隣の高校生の楽しげな姿が見える。  いつもであれば諏訪も、部員たちと賑やかに通る道だ。  だが、今の諏訪は独りだった。  甘井呂の言葉を突っぱねて授業中ほぼ机に突っ伏していた諏訪は、いつも通り部活には参加した。  しかし、顔色が悪い上に体の動きも悪くて、部長の林に「帰れ」と言われてしまった。  このくらい大丈夫だと押し切ろうとしたものの、 「副部長、練習の邪魔っす」  という、容赦ない唐渡の言葉に殴られて帰ることにした。  口の利き方が悪いと林に注意される唐渡の顔を思い出すと、まだ胸の傷が疼く気がする。 (言い方! そりゃ俺が悪いけど言い方……! まだ甘井呂のが優しい!)  重しがついたような頭でごちゃごちゃと考えながら歩いていると、後ろからガンッと肩に衝撃が走る。 「わぁっ」  上手く踏ん張ることが出来ずに転倒してしまった諏訪は、なんとか手で地面と顔面がぶつかることだけは避けた。  痛みと腹立たしさでぶつかってきた相手を睨み上げると、相手も肩を抑えながら眉を顰めていた。 「イッてーなぁ。なにすんだテメェ」 「ぶ、ぶつかってきたのそっちだろ」 「あぁ!?」  本音が出てしまってから、諏訪は後悔する。  見下ろしてきているのはブレザーを着た高校生だが、だらしなく着崩していて派手な髪色髪型をしている。  顔に擦り傷もあって、明らかに真面目な学生ではなかった。  しかも似たような雰囲気の学生があと二人後ろにいる。 (体調不良だと不良によくぶつかるのかな……)  そんな場合でもないのに現実逃避してしまう。  初対面で悪態をつきながらも体を受け止めてくれた甘井呂と同じにしてはいけない雰囲気だった。 「今時学ランってことは、アノ野郎と一緒の学校だよな?」 「どの野郎のことかわかんないけど失礼しまーす」  覗き込んできた顔と反対方向へと視線を逸らし、諏訪は立ち上がる。背中に嫌な汗が伝った。 「待てよ」  この状況で待つ人間がいるだろうか。  最近入学してきた甘井呂を含め、同じ学校で「アノ野郎」として思い当たる派手な格好の生徒は何人か居る。だがその中の誰かの代わりに暴力を受けるかもしれないなど、まっぴらごめんだ。  一刻も早く立ち去らないと、とカバンを掴んで走り出そうとした諏訪だったが。 「待てっつってんだろ!」  あっさりと腕を掴まれた。  まずいと思って周りを見渡しても、見て見ぬふりするだけで助けてくれる様子の人はいない。  目が合ったのに、逃げるように早足で去っていく学生もいた。 (せめて誰か呼びに行くとかしてくれよ!)  心の声は、誰にも届かない。  もし聞こえていても無視されているのだろう。  本当に声を上げたら、その時点で殴られるかもしれないと思うと万事休すだった。
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