運が悪い

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 一番体が大きい不良にガッチリ肩を組まれて、諏訪は絶望的な気持ちになる。 「怖がんなって、ちょっと話聞きテェだけだから」 「ナンデスカ」 「まぁまぁ、こっち来いって」 「人目のあるとこでオネガイシマス」  三人に囲まれた諏訪は必死でその場に止まろうとするものの、どんどん人気のない路地裏に連行されていく。  まずいのに捕まった。  部活のことを考えると、怪我をするのは困る。  単純に腕力や体力だけであれば、諏訪は絶対に負ける気はしなかった。  でも、暴力沙汰で全員が試合に出られなくなるなど言語道断。諏訪は何があってもやり返せない。  しかも、今はとにかく気持ち悪くて走れる気がしない。 (走れたら絶対追いつかれないのに……っ)  薄暗い路地の壁に、背中を強くぶつけられ息を詰める。  これから起こるであろうことを想像し、萎縮した体を諏訪は叱咤した。逃げ道はないかと視線を巡らせ、大きなゴミ箱を目の端に捉える。  その間に正面に立った不良は、諏訪の顎を掴むと無理矢理自分の方を向かせてきた。 「お前Subだろ? 可哀想に、欲求不満で死にそうじゃん」 「は……?」  頭の中で警鐘が鳴り響く。  ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている相手が何を言っているのかを理解できなかったが、この場を離れたいという気持ちが更に強くなる。 「そういう感じ? Domさまって優しいなー」 「ここでPlayしてやんの?」 「むしゃくしゃしてたから丁度いいだろ」 (何、言ってんだ?)  会話内容から、諏訪の顎に触れているのがDomだということだけは読み取れた。  確かに妙な圧を感じる気がするが、それよりも。  Normalの諏訪に対して何を勘違いしているのか、楽しげにPlayの話をしている三人はSubを追い詰めたと思って完全に油断している。  この機を逃すわけにはいかない。  諏訪は思いっきり深呼吸してから、渾身の力を込めて目の前の胸を押す。ドンっという衝撃と共に、Domだという不良がよろけた脇をすり抜ける。  伸びてきた他の手を振り切って蓋付きのゴミ箱に飛び付き、不良たちの方へと蹴り倒した。 「うわっ」 「こいつ!」  円柱型で転がりやすいゴミ箱に阻まれて、不良たちはまんまと足止めを食らっている。 (ノロいけど、なんとかなるかも!)  路地の先が行き止まりでないことを祈りつつ、諏訪は逆境に慣れている足を懸命に動かした。  はずだった。 「Kneel(跪け)!」 「え……?」  突如、膝からガクンと崩れ落ちる。  ポケットに入れていたスマートフォンが地面とぶつかり、ケースに付いていた飾りが落ちた。  耳に鮮明に届いた言葉。  聞き慣れない単語なのに、まるで知っているかのように体が反応した。
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