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 完全に未知の世界だ。  諏訪はベッドに寝そべりながら、部屋の中を見渡す。  未成年可のプレイルームなのだと甘井呂に連れてこられた建物は、外観はビジネスホテルのようだった。だから初めての場所に身構えつつも入りやすかったのだが。 (ど、どう見てもラブホなんだけど……)  案内された部屋は桃色の照明に照らされており、花柄の絨毯が敷かれ、諏訪が寝ているベッドはたっぷりとレースがついているという愛らしい内装だった。  実際には行ったことがなく、少し知識が有るという程度の「大人の空間」の雰囲気を彷彿とさせる。  プレイルームとは名前の通り、DomとSubがPlayするための場所だ。  成人していれば性的な交わりをする場合もあるため、諏訪の連想はあながち間違いではない。  緊張してしまってシーツを握りしめている諏訪の頭を、甘井呂はペシンっとメニュー表のようなもので軽く叩いた。 「これ、リスト。本能でCommandに体は反応するけど、何言われるか分かる方がいいだろ」  差し出された表には、Come(来い)Stand up(立て)など、基本的なコマンドが書いてある。  不良が(はな)っていたKneel(跪け)Lick(舐めろ)もあって胸が嫌な感じにざわついた。 (絶対、逆らえないんだもんな……でもやらないと体調悪いまま……)  不安が表情に出ていたのだろう。  甘井呂はベッドの横にしゃがみ込むと、諏訪と目線を合わせて手を重ねてくれる。  健康的に日焼けしているのに冷たい手の甲と、透き通るように白いのに温かい手のひらが触れ合う部分から、じわりとぬくもりが広がっていった。 「じゃあ早速、と言いたいけど。まずはセーフワード決めるぞ」 「セーフワード……」  甘井呂が不良たちにも言っていた単語だ。  保健の授業で習った気がするが、確かPlay前に決める約束事の一つ。  Subがどうしても受け入れられないことがあれば、セーフワードを言うことでDomのPlayを中断させることができる。  言葉の意味を知っていても、今までNormalとして生きてきた諏訪にはいまいちピンとこなかった。 「んー……思いつかないな」 「特になければRedだな」 「一発退場じゃん」 「やりすぎたらそうなるってことだよ」  なんでもないことのように甘井呂は言うが、諏訪はサッカーの試合中に審判が出す赤色のカードを思い浮かべて眉を寄せた。  出来れば想像もしたくない。 「別の言葉、考える……。あのさ、セーフワードって、Domにダメージあるんだよな?」 「そこは気にすんな。嫌なことは言わねぇと」  甘井呂の言うことは最もだし、緊急性があると伝わりやすい言葉の方がいいのだろう。  しかし自分のために手を尽くしてくれている甘井呂に、強い言葉を使うのは躊躇われて頭をひねる。 「じゃあ、『知らない』にする」 「……ん?」 「多分俺、分からないこと多くて中断させる気がするから……」 「セーフワードってそういう時に使うんじゃねぇんだけど」
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