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 ボソボソと自信なさげに説明する諏訪を見て、怪訝そうに首を傾げていた甘井呂が笑みをこぼす。  諏訪はセーフワードなんて使うことはないんだろうとその表情を見て確信した。  出会ってからずっと、甘井呂はSubに優しい。 「まぁ、とりあえずそれで。さっさとした方がいいからな」  前髪をサラリと掻き上げて、甘井呂は小さく息を吐いた。その様子は、少し緊張しているようにも見える。  慣れているのだと勝手に思っていたが、甘井呂はまだ一年生だと思い出した。諏訪よりも二歳も年下だ。  諏訪は重なった手を動かし、力の入らない指で甘井呂の手をきゅっと握る。 「甘井呂、よろしくな?」  少しでも先輩ぶりたくて唇に弧を描いて見せると、甘井呂は軽く目を見開いてから頷いた。 「諏訪、でいいか」 「先輩」  諏訪は自分の常識に則って訂正したものの、鼻で笑ってスルーした甘井呂が静かに口を動かした。 「諏訪、Look(俺を見てくれ)」  その刹那、諏訪は吸い込まれるように眼前の瞳から目が離せなくなる。  同時に、カッと体全体が熱くなるのを感じた。  たった一つの短い単語が頭の中を占拠して、他のことを考えることはできない。 (これ、だ……)  諏訪の体は歓喜し、甘井呂だけを瞳に映していた。 「Good boy(良い子だな)」 「あ……」  不意に目を細めた甘井呂が、ゆったりと髪を撫でてきた。  諏訪は、今度は幸福感に溺れそうになる。  心臓が強く脈打ち、久々に血が巡っているのを感じた。 「どんな気分だ?」  何も言えずに、ただ口を開けて瞳を潤ませる諏訪に、甘井呂は問いかけてくる。  よくよく見れば、甘井呂の頬も熱をもっていた。Dom性とSub性が、互いに作用し合っている証拠だ。  だが諏訪は甘井呂の様子に気がつく余裕がない。  質問に対しても、ただぼんやりと見上げるだけだ。 「気分……?」 「そう。Say(言ってくれ)」 「えっと、なんか、ドキドキして」 「うん」  二回目のCommandを受ければ、声も出なかった状態から解放されて自然と口が動き始めた。  言いたいことがまとまらず幼い子どものような語彙になってしまっても、甘井呂は頷いて聞いてくれる。  諏訪は安心して、心のままを言葉にしていった。 「ふわふわして……気持ちいい……」  とろけた顔で紡ぐ言葉の粒を拾って、甘井呂の笑みが深まる。今度は両手で頭を包まれる。 「Good (よく出来ました)」  心の枷が外れていくかのように、体が軽くなっていく。  部室でプレイを覗き見た時や、その後に甘井呂と会話した時もそう感じた。  でもCommandとして自分に向けられた言葉が与えてくれる幸福感は段違いだ。
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