Play

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「も、動ける……から、もっと……」  諏訪はゆっくりと体を起こして甘井呂を見下ろす。積極的に求める諏訪に対して、甘井呂は目を細めて短い黒髪を指ですく。 「頭や手以外も触っていいか?」 「ど、どこ?」 「顔とか首とか……抱きしめたりとか」  甘井呂が、抱きしめてくれる。  それは諏訪が一番待ちわびていたものだ。  初めてPlayを見てからずっと。  腕の中にいることを想像しただけで胸の奥までギュンッとなり、日に焼けた頬が紅潮する。  諏訪は年下相手に恥ずかしいとか照れくさいなんて全く考えずに、何度も何度も頷いた。 「抱きしめるの、してほしい」 「かわいい」  気がついた時には、ぬくもりに包まれていた。  かわいいなんて、自分に似つかわしくない言葉を言われたことを気にする間もない。  逞しい腕に応えるように諏訪も背中に手を回して抱きしめ返した。 「でもこれって、ご褒美にするんじゃないのか?」 「したくなったから」  胸に顔を埋めながらも疑問を口にすると、甘井呂は体を離してしまう。名残惜しく思ったが、諏訪を見つめる綺麗な顔が「愛おしい」とでもいうようにゆるんでいて何も言えなくなった。 「もう動けそう、なんだよな?」 「ああ、体が軽い……甘井呂、すげぇな。ありがとう」 「そのためにPlayしてんだから当たり前だろ」  素っ気なく答えていても、甘井呂の表情は満更でもない。やはり、意外と分かりやすい奴なのだと諏訪も甘井呂を可愛く思う。  まさかそんなことを思われているとは夢にも思っていないだろう甘井呂は、諏訪の頬に指先で触れてきた。 「じゃあ、基本姿勢やってみるか」 「基本姿勢?」 「俺の足元に座る……さっきやられてたから嫌なら今日はやめとくか」  ハッとしたような甘井呂の言葉が、いきなり不良に掛けられたCommandを呼び起こす。聞き慣れない英単語なのに、不思議と従ってしまった。  今も、スッと頭に浮かんでくる。 「ニール?」 「そう」  本来なら、やめておこうと思うのかもしれない。  でも諏訪は甘井呂の手に自分の手を重ねて、頬を擦り寄せた。 「それが基本なら、やってみる。基本は大事だから」 「やってみて嫌だったら、すぐセーフワード言えよ」  甘井呂はカーペットの上に足をつけてベッドの端に座るよう諏訪に促してくる。  弾力のあるベッドに揺られながら、諏訪の目は一歩離れて立つ甘井呂を追う。  これまで自分が普通に話していたのが信じられないほど、甘井呂が纏うオーラは圧が強い。すぐに平伏したくなってしまうのを諏訪はこらえた。  早くCommandが欲しいと喉を鳴らす。聞き逃さないように、見逃さないように、形の良い唇を凝視した。 「Kneel(おすわり)」  Commandとほぼ同時に、諏訪はぺたんと座った。  足も膝も尻も、手のひらも。全て柔らかい花柄のカーペットに触れている。  甘井呂の足を見ながら、不良に強制的に座らされた時とは違うのをひしひしと感じる。  不快さは全くなく、ひたすらこの空間が心地いい。 「諏訪」  呼ばれて見上げると、満ち足りた表情の甘井呂がいた。  ゾクリと背筋が震える。  自分の体を、甘井呂の体であるかのように扱って欲しい。  してほしいことをどんどん言って欲しい。  諏訪は甘井呂の足にそっと触れて、熱い吐息を漏らす。 「なぁ、もっと、Commandくれよ」 「……本当に、素直で可愛いな」  二人は制限時間ギリギリまで、互いの高揚感に従って心を交わし合った。
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