入部希望者?

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入部希望者?

 ガス欠だ。  諏訪大輝(すわだいき)は授業が終わるなりすぐに走り出したにも関わらず、部室に辿り着く前に足を止めた。  たかだか数分走っただけで頭が霞み、心臓が破れるほど動いている。上手く呼吸が出来ず喉が痛い。    幼児の頃から高校三年を迎えた今年まで、サッカーボールを追いかけ回して生きてきた。そんな彼にとって、これしきで息が上がるなど信じがたいことだった。  視界を一切邪魔しないように短く切った髪を、グシャリと掴んでため息を吐く。   (風邪かなぁ)    これまで無視してきたが、最近はそういう日が増えてきている。睡眠の質も落ちていて朝も怠く、授業中は今まで以上に何も頭に入ってこない。  一番大切にしている部活動にはまだ支障が出ていないのが救い、といったところだ。    ふらつく足で、それでも校庭の端にある部室棟へと足を進めていく。春の陽気の下、さほど暑くもないのに額に滲んでくる汗を拭った時。  バフンっと何かにぶつかった。 「……っ」 「おい、前見て歩けよ」 「わ、悪い」  衝撃で倒れそうになった体を、腰に回った力強い腕に支えられる。と、共に低く耳心地良い声が聞こえて、足に力をこめながら諏訪は謝罪した。  前は向いていたが、指摘の通り全く見えてはいなかった。 「おお……お前、一年生?」  顔を上げた時に目に映った姿に、諏訪の目がキラリと輝く。体調悪いのが吹っ飛んだ。    そこには、男でも見惚れるほどの美形がいた。  こんな目立つ生徒、同学年や二年生にいたらとっくに気付いているはずだから新入生で間違い無いだろう。    前髪がサラリと長くて後ろだけ刈り上げた金髪は、日焼けした諏訪とは正反対の白い肌にとてもよく似合っている。    だが諏訪の心を昂らせたのは彼の体格。  同年代の平均身長より少し高い諏訪より十センチは高い上背と、学ランを着ていても分かるしっかりした厚み。きっと脱いだら良い筋肉がついているに違いない。   (それに……なんだろ……)    触れられているからじゃない。  支えられた腰から広がる不思議な熱。    とにかく捕まえておきたくて、諏訪はまつ毛の長い目を食い入るように見つめた。 「俺、三年の諏訪! お前の名前は?」 「……」  持ち前の明るさでテンション高く問いかけたというのに。  その男子生徒は諏訪がしっかり立っているのを確認すると、ふいっと目を逸らして歩き出してしまった。 「こらこら! 無視は良くないぞ!」 「……っ、なんなんだ急に」  逃してなるものかと二の腕にしがみ付いた諏訪を、男子生徒は迷惑そうに見る。だが意外にも、無理矢理振り払うことなくその場に留まってくれた。  諏訪は手の力を緩めることなく、満面の笑みで綺麗な顔を見上げる。 「身長高いな! サッカー部入らねぇ?」 「入るように見えんのか」 「いや見えねぇけど」  ため息と共に吐かれたセリフに、諏訪は正直に即答する。    アイドルみたいなスタイルにした金髪はもちろん、左右の耳で光る銀のピアスも首のシンプルなネックレスも、校則違反のオンパレードでとてもスポーツマンには見えない。    しかし、諏訪は掴んだ腕の触り心地から想像通りの筋肉を感じて食い下がる。 「すっげぇ良い体格してるから勿体な」 「諏訪副部長ー!!」 「おお?」  なんとか口説き落とそうとしているのに、けたたましい声が邪魔に入ってきた。
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