もやもや

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もやもや

 諏訪は驚いていた。  甘井呂とPlayしてから、四日ほど。  すこぶる体調が良いのだ。 (こんなに体が軽いのいつぶりだ?)  部活中はボールが足に吸い付いてくるようだったし、人の動きもよく見えた。遠くで呼んでいる部員の声もはっきり聞こえたし、部活後のミーティングでも頭がきちんと働く。  食欲もあるし、夜はよく眠れる。  当たり前のことが当たり前にできるようになるとこんなに快適なのかと感動するほどだ。  それと共に、自分の性を認識していないことの恐ろしさを思い知った。 (俺、Normalだったはずなのに)  学校の図書室で本棚の森をウロウロと歩きながら、諏訪は一人でため息を吐く。  中学校入学前に、第二性の検査をすることが義務化されている。  小学生の時にすでに片鱗を見せている子どももいるし、その検査で初めて自分の性を知る子どももいる。  諏訪ももちろん検査を受けているし、結果が想像通りNormalだったことは親も教師も医者も確認済みだ。  しかし例外のないものはない。 「検査するのは人間だからな。ミスってことも考えられるし……」  諏訪はPlay後に甘井呂が言っていたことを思い出した。 「あんまりいないけど、途中で性別が変わるやつもいるらしい」 「なんで?」 「なんでとかじゃねぇんだよ。突然変異だ」  涼しい顔で肩をすくめる甘井呂に対し、すっかり元気になって水筒を傾けていた諏訪は頭を捻った。  とても重要なことだと思うのだが、聞いたことがない。忘れているだけの可能性は充分あるが。 「そんなん授業で言ってたっけなぁ」 「さぁな。俺はDomだって分かってから自分で調べた」  意外と真面目だと言ったら、ウルセェと口をへの字に曲げてしまった。 (話せば話すほど面白いんだよなぁ)  思い出し笑いしそうになる唇を噛み締め、諏訪は本の背表紙を眺める。  それにしても、まるで恋人同士のような時間を過ごした。  互いに求めて求められて、ずっとドキドキして幸せで。  Playとは、すごいものだ。 (あんなかっこいいやつにあんなに大事にされたら、勘違いするやつ多そう)  満たされる感覚が呼び起こされるのを抑えながら、諏訪は今までの甘井呂のPlay相手に同情した。 「それにしても……どこにあるんだ……」 「副部長、何探してるんすか?」 「ほぁわっ」  目的の本が全く見当たらずに眉を寄せていると、背後から突然声をかけられて飛び上がる。  静かな図書室に諏訪の声が響き渡って、慌てて口を押さえた。 「よかった……まだ顔色いいっすね」 「か、唐渡か……」  振り返ると、見慣れた彫りの深い男前が見下ろしてきていた。  頻繁に手を焼かされている後輩の唐渡だ。
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