もやもや

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 スポーツをするために生まれてきたと言っても過言ではない恵まれた体格の唐渡は、諏訪を覗き込んで日焼けした顔を綻ばせた。  心底ホッとしたような声を聞いて、唐渡なりに諏訪をとても心配していたのだと気付かされる。  諏訪は白い歯を見せて笑うと、唐渡の好き勝手な方向に跳ねている黒髪に手を伸ばす。唐渡は首を傾げながら素直に頭を下げた。 「なんか付いてます?」  目の前に来た頭に両手を添えた諏訪は、ぐしゃぐしゃと勢いよく髪をかき混ぜる。 「みんな心配しすぎなんだよ! あんなの寝たら治ったしもう大丈夫! 絶好調ー」 「ど、どう考えても不調期間長過ぎっすから」 「あははは、そうだっけ?」  元々まとまらない髪をさらに乱された唐渡がジトっと見てくるのを笑って躱しながら、諏訪は佐藤のことが頭をよぎる。 『Subなんて気持ち悪いよね……唐渡だって……』  唐渡とPlayしてSub dropした時に何か言われたのか。それとも他の時に言われたのかは分からないが、佐藤が口を滑らせたタイミングからして唐渡に何か言われたはずだ。 (本当に言っちゃいけないことは分かる奴だと思うけど……カッとなりやすいから思わずなんか言っちゃったんかな)  諏訪と同じくずっと体育会系で育ってきた唐渡のことだ。甘井呂とは違って、先輩である佐藤にはそれなりの礼儀を持って接しているように見える。  諏訪に対しての「邪魔」発言は唐渡なりの気遣いだと部長の林からフォローがあった。先程の唐渡の表情を見て、諏訪もそれを確信している。 (Playの時って、なんかそういうの超えちゃう感じするし……それでかなぁ……)  サクッと聞いてしまいたいが、デリケートすぎる内容だ。  諏訪が何も言わなくなったのをどう解釈したのか、唐渡が本棚に目線をやって口を開いた。 「で、何探してんすか? 取れないんなら取りますよ」 「自分がデカいからってお前……流石に一番上まで届くっての」  諏訪は悪戯っぽく笑う唐渡の胸を、手の甲でバシンと叩く。  同年代男子の平均身長以上はある諏訪が届かないならば、それは図書室の欠陥と言っても良いくらいだろう。 (甘井呂といい、唐渡といい……Domって威圧感出すために顔が良くてデカいのかなぁ)  他のDomを何人も知っているので、そんなはずがないことは分かっているが。
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