もやもや

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 雰囲気の違う二人のイケメンを頭の中で並べて遠い目をしてしまう諏訪を、唐渡はキョトンと見下ろしてきた。 「なんすか?」 「なんもない。えーとな、第二性関連で調べたいことがあんだけど……普段、図書室使わないからうまく探せなくてさ」 「そういうんならあの辺っすけど……」  どうせ言っても分からないだろうという気持ちで答えたのに、唐渡はあっさりと本のありかを指差す。  第二性を持っていると普段から意識しているから自然と覚えるのだろうか。それとも唐渡も、諏訪がやろうとしているように自分の性と向かい合うために調べたのだろうか。 (甘井呂も、きっとそうなんだろうな)  インターネットだと情報の真偽の判定が難しいから、図書室で高校生向けのものを借りた方がいいと教えてくれた涼しい顔を思い出す。  本を読む習慣はない諏訪だったが、理由に納得して図書室を彷徨っていたのだ。  知りたいことが書かれている本が並ぶ一角へ唐渡と移動した諏訪が、どれが良いのかと気になる題名のものから確認していると。 「あの……」  隣で諏訪の手元を見ていた唐渡が、らしくなく控えめな声を出した。 「副部長、なんでこんなん調べてるか聞いてもいいっすか」  答えたくなければ大丈夫です、と言われてしまって、諏訪はぎこちない動きになる。  なんと答えたものか迷い、視線が上へ下へ横へとウロウロ動いてしまった。 「だ、誰かさんがいろんな人をSub dropさせちゃって大変そうだから勉強しようかと!」  無理やり捻り出した理由を聞いた唐渡は大きな目を瞬かせる。 「俺のため?」 「『ため』じゃなくてお前の『せい』」 「ツンデレ似合わねぇっす」  憎まれ口を叩きながらも、口角を僅かに上げている素直な唐渡を目の当たりにして罪悪感が押し寄せてきた。  諏訪は喉で言葉が引っかかって、 「Subだって分かったから、自分のことをちゃんと知りたいんだ」  と、本当のこと言えない自分が信じられなかった。  謎のモヤモヤが胸を覆うのを感じつつ、さっさと三冊の本を脇に抱えて貸し出しカウンターへと歩き出す。 「うるせー。そんで、お前はなんで図書室にいるんだ? 本とか読まないだろ」 「失礼すぎません? まぁ読まねーっすけど」 「読まないのかよ」  眉を寄せたものの、正直に答えて唇を尖らせる唐渡を見て諏訪は吹き出す。  プライドに触ったのかすねてしまったのか、唐渡は視線を明後日の方向へとやってボソボソと喋った。 「副部長が図書室入るのが見えたから来たんすよ」 「なんか用があったのか?」 「別に」 「……何か、相談があるとか」 「ないっす」  佐藤とのことを相談してもらえるのかと小声で切り出してみたが、きっぱり否定されてしまった。 「変なやつだなぁ」  諏訪は唐渡が変わっているのはいつものことだと、あまり気にしないことにしてカウンターに座る司書教諭の女性に本を出す。  長いため息が後ろから聞こえてきても、 「幸せが逃げるぞ!」  と、背中を叩くだけで深く追求することはしなかった。
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