Glare

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「あ」 「待て」  放課後、早歩きで部活に向かう途中。  廊下を賑やかに行き交う生徒たちの合間から金髪が見えた瞬間、諏訪はゆっくりと回れ右をした。しかし、即座に呼びかけられてしまう。  DomとSubの気質のせいか、一度Playして関係性が築かれてしまったせいか。それとも罪悪感があるからなのか。  諏訪は甘井呂に逆らえず、逃げようとする自分の足を止めざるを得なかった。  特に怒っている様子もなかったが、甘井呂はただでさえ身長が高く体格がいい。  ピアスやネックレスなど派手な服装で高いところから見下ろされると、どうしても気圧される。 「ちゃんと行ったのか?」  予想通りのことを聞かれて、諏訪はリュックの肩紐を握りしめた。周囲を気にしてくれた甘井呂は「どこに」とは言わなかったが、「病院」であることは明白だ。  出来れば答えたくないが、誤魔化せるわけもない。 「ま、まだ」  笑顔になりきれない歪な表情で、らしくないか細い声が出た。案の定、甘井呂の眉間にグッと皺が寄る。 「おい」 「なんか、気持ちの整理が……って……」  深い声の迫力に負けてしどろもどろになりかけたが、諏訪は踏み止まった。周囲の生徒がチラチラとこちらを見始めたのだ。  諏訪は自分の感情に逆らって、今度こそ笑顔を作る。 「ほんっとお前は! 俺の方が先輩なんだから敬語くらい使えって。怖い顔しちゃってさー」 「……」  人差し指を眉間に突きつけ皺を伸ばすようにグリグリと動かすと、手首をがっしりと掴まれた。甘井呂の仏頂面がずいっと近づいてきて、唇が耳元に寄せられた。 「センパイ、ちょっと用がアリマス」 「……っ、悪い、今から部活」  吐息が掛かって背中がゾワゾワする。 「知るか」  諏訪が肩を竦ませている隙に、甘井呂は掴んだ手首を引いて歩き出してしまった。抵抗するとまた目立ってしまうので、諏訪は「仕方ないな」というフリをしてついていくことにした。  どんどん階段を登っていく甘井呂がどこにいくのかと思えば、辿り着いたのは屋上に繋がる扉の前。  扉には鍵が掛かっていて残念ながら屋上には入れないが、滅多に人はやってこない場所には違いない。  電気が古くなっていて薄明かりしかない階段に、諏訪は座らされた。  さっきから逃げようとする度に甘井呂から感じる、妙な威圧感がある。  目線を合わせるだけで「従わないと」と思わせるのだ。  不思議と心地いいのだが、今まで甘井呂といる時に頭がふわついていたのとはまた違う強制力を感じる。
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