Glare

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(Command、使われてないのに……これがGlare(グレア)ってやつか?)  Glare(グレア)はDomが持つ特有のオーラのようなものだ。  Dom同士で牽制しあったり、Subを従わせるために発せられるのだと教科書には書いてある。  第二性を持つ友人が言うには、上位のDomほどコントロールが上手く他者に与える影響も大きいらしい。  腹の奥に熱いものを感じながら、諏訪は隣に腰を下ろそうとしている甘井呂に場所を空ける。 「部活を休みたくないなら午前休め」  真剣な表情をした甘井呂が重い声を紡ぐ。  授業をサボることを勧めてくるのが可笑しくて諏訪は唇が緩むが、病院のために休むこと自体は悪くないと思い直す。  それでも、すぐには首を縦に振らなかった。 「朝練ってものがあってな?」 「ふざけるなよ」  冗談半分のつもりだったが、甘井呂の雰囲気が一変した。目付きと声が暗くなるのと同時に、柔らかかったGlare(グレア)が強くなる。  諏訪は腰の力がガクンっと抜けて、思わず甘井呂の膝にしがみついた。 「……! ごめ、なさ……!」 「あ……っ悪い」  すぐに気づいた甘井呂がGlare(グレア)を引っ込めてくれたが、ゾクゾクと全身を蝕む感覚はすぐには抜けない。  感情の起伏によってコントロールが難しくなるGlare(グレア)は、他人を傷つける凶器にもなりうるのだ。 (この押し潰されそうな感じ、嫌なだけじゃないのがSubって感じだな……甘井呂、優しいし)  まだ震えている諏訪を胸に抱き寄せ、背中を撫でてくれる甘井呂に甘えて、額を肩に擦り付ける。  甘井呂が悪いわけではないのに、本当に丁寧に扱ってくれる。 「せめて理由を教えろよ。命とサッカー、比べもんになんねぇだろ」  先ほどまでよりも穏やかな声で、改めて諭してくる。  諏訪にとっての部活は、正直に言うと「命と同じくらい大事」だ。倒れる直前まで運動場を走っていたほどなのだから。  甘井呂にとって諏訪の気持ちが理解不能なことは重々承知しているし、そんなことを言ったら本気で怒られそうだ。  不良を一発で沈めた拳を思い出してしまったのもあり、これ以上の口答えはよした。  でも「理由」を聞かれると、上手く考えがまとまらなかった。  諏訪は甘井呂の肩に額を当てたまま、ポツポツと話しだす。 「なんか、まだ……家族にも言えてなくて……」  自分の中でもよく分からない感情をなんとか説明しようともがく諏訪の言葉を、甘井呂は頭を撫でながら黙って聞いてくれる。  だから勇気づけられて、諏訪は更に口を動かすことが出来た。 「上手く自分の中で消化できてないっていうか……よく、わかんないんだけど」  喋ったところで具体的なことが分かるわけでも解決するわけでもなかったが、もやもやが少しだけ薄れた気がした。  それでもしきりに病院を勧めてくれる甘井呂を納得させられたとは思えなくて、顔を上げて至近距離から見つめる。
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