ゲームセンター

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ゲームセンター

 気を抜くと隣にいる友人の声が雑音にかき消されてしまう。  統一感のないさまざまな音楽や機械が動く音、コインが落ちる音、さまざまな音が混ざり合う空間。  「すっげぇええ! 百発百中じゃん!」  部活中ならば校庭の端から端まで届く興奮した諏訪の声も、騒音に飲まれて正しく聞き取ったのは甘井呂だけだった。  本物に似せて作られた銃口の先にある大画面では、おどろおどろしいゾンビたちが近づいては悲鳴を上げて倒れていく。 「こんなん慣れだろ」 「だとしたら、お前どんだけやり込んでんだよ!」  すでにゲームオーバーになっていた諏訪は、甘井呂が涼しい顔でどんどんステージを進めていくのを楽しく眺めていた。  本日は土曜日、時間は十四時前。  午前で部活が終わった諏訪は、学校から数駅先のゲームセンターで甘井呂と遊んでいた。  本来の目的はプレイルームへ行って「体調管理」することだ。  甘井呂と週末会うようになって最初の二回ほどはそれだけをしていたが、 「せっかくなんでもある街に来てるのに勿体無いよな」  と思った諏訪は、一緒に昼ごはんを食べようと誘った。  それからは、部活の後に一緒に昼ご飯を食べて遊んでから、プレイルームへ行くようになったのだ。 「甘井呂、ゲームならなんでも得意なのか?」 「なんでもじゃねぇけど」 「あれは?」 「音ゲーか? あれならやったことある」 「じゃあやろうぜ」  諏訪が声を弾ませて腕を引っ張れば、甘井呂は満更でもなさそうに従順についてくる。  趣味が合うとは言えない二人だったが、ともに過ごす時間は楽しかった。  色々と遊んでいる途中、甘井呂がトイレに行くというので諏訪は壁際のベンチに座る。壁に背中を預けて店内をぼんやりと眺めると、年齢問わずファッションもさまざまな人々が目に入ってくる。  DomやSubもいるんだろうと、今まで考えなかったことが頭をよぎった。  自分の中で何かが確実に変わっていく。 (……なんか飲むか)  熱気に溢れた店内で、じんわり汗が滲んできた。  ベンチのすぐ隣に二つ並んだ自動販売機へと目線を向けて、諏訪は立ち上がる。 (甘井呂も飲むかな……) 「あれ、副部長?」 「お?」  下から声を掛けられてふと隣の自動販売機を見ると、唐渡がしゃがんだまま大きな目を丸くしていた。誰かがいることは認識していたが、まさか午前中まで一緒にいた後輩だったとは。  麦茶のペットボトルを手に立ち上がった唐渡は、ふにゃりと表情を緩ませる。 「偶然っすね!」 「お前もゲーセンとか来るんだな」 「副部長、さっさと帰っちゃいましたもんね。部活の後、何人かで飯食って……三年の先輩たちもいるっすよ」
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