ゲームセンター

2/3
前へ
/80ページ
次へ
 知り合いに会いにくいようにと、わざわざにぎやかな街を選んだというのに。  いつもならば他の友人といる時でも、サッカー部の仲間に声を掛けに行こうと思っただろう。だが今の諏訪は、なんとも言えない表情になってしまった。 「……みんなで遊ぶのは良いことだな」 「おっさんくせぇ」 「誰がおっさんだよ!」  べシンっと額を叩くと、唐渡は患部を摩りながらもケラケラと笑っている。妙に機嫌が良いのを見て、諏訪は心の中で首を傾げた。 (ゲーセン、そんな好きなのか?)  ひとしきり笑った後、唐渡はキョロキョロと周囲を見渡す。 「つか、一緒に来た人はどこっすか? もしひとりなら」 「ここだ」  諏訪と唐渡の間に、大きな体がずいっと割り込んで来た。サッカー部と合流しないかと誘ってくれようとしたであろう唐渡の顔が、諏訪からは見えなくなってしまう。 「おう、甘井呂。そうそう。今日はこいつと約束あってさ」 「そういやこいつ、なんなんすか」  諏訪が体を傾けて唐渡をみると、先ほどまでとは打って変わって険しい表情で甘井呂を睨んでいる。 「何って……そりゃ」  急に険悪になった空気に、諏訪は思わず無表情の甘井呂の顔を見上げた。なんと返事をしたものかと少し迷ってしまう。  でも唐渡の質問はまだ終わってなかったらしく、刺々しい声色で言葉が続いた。 「こないだ部活来てたけど。副部長の中学の後輩?」 「どうでも良いだろ。お前には関係ない」  甘井呂が普段通りの無愛想な返事をしてしまったことで、唐渡の機嫌はさらに急降下した。  諏訪には、イケメンふたりが散らしている火花が見える気すらする。 「おい。お前一年だろ」 「だから?」 「ストップストッ……っ」  まずいと思った諏訪が甘井呂の腕を引いた時には、もう遅かった。  諏訪は、ペタリと床に跪く。  自分の意思とは全く関係なく体が動いた。  甘井呂と唐渡は互いにGlare(グレア)をぶつけ合ったのだ。  二人分のGlare(グレア)を受けた諏訪はなすすべなく体を震わせる。  Glare(グレア)はSubを従わせる他に、「この人は自分のSubだ」と他のDomを威嚇する意図で発される時もあるというが。 (まさか普通の喧嘩で不機嫌になっても使うなんてな)  諏訪がKneel(跪く)の姿勢になったことに気がついた二人が、慌ててGlare(グレア)を引っ込めた。それでも頭がくらくらする。  思えば甘井呂と唐渡は、初めて出会った時の心象がお互い最悪だったはずだ。  いきなり仲良くなれるはずもない。しかし、公共の場でのGlare(グレア)はいただけない。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加