入部希望者?

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 思わず体をビクつかせながら振り返れば、よく見知った後輩が血相を変えて叫んでいる。 「部室で佐藤さんがサブドロップしちゃってます! 震えて蹲ったまま全然動かない!」 「サブド……っ!?」  サブドロップ……Sub drop。  後輩の口から出てきた単語を聞いて、諏訪は目を見開いた。    この世界には、男女の性とは異なるDom(ドム)Sub(サブ)という特殊な第二の性を持つ人たちがいる。  Domは支配したいという欲を持つ性。対するSubは支配されたいという欲を持つ性だ。  第二性を持たない人々はNormal(ノーマル)と呼ばれ、人口の七割を占めている。    DomとSubは互いの欲求を満たすことが出来る関係にある。  が、人間同士のことだ。上手くいかないことがあって当然だ。  そして欲求が上手く解消されないと、DomもSubも体調に悪影響を及ぼしてしまうのだ。    その内の一つが「Sub drop」。  Sub性を持つ人間が己の欲を溜めすぎたり、Domから強すぎる影響を受けたりして陥る、鬱のような状態だ。  薬やDomのケアによってすぐに回復することがほとんどだが、場合によっては命を落とすこともあるという。    DomでもSubでもない、いわゆる「普通の」男である諏訪にはその感覚はわからない。  だがとにもかくにも。  震えて動かない人がいるなんて、Sub dropだとか部活だとか関係なく緊急事態だ。現場に急行しなければならない。 「悪い! ちょいごたついてるけど一緒に部室まできてくれ!」 「なんでだよ」 「諏訪副部長、これは誰ですか」 「入部希望者!」 「えっ」  緊急事態でも、ついさっき出会ったばかりの男子生徒を離さない諏訪。  金髪の男子生徒の出立ちを見て、目を剥く後輩。  そして逃げようと反対方向へ動こうとする男子生徒。 「希望してねぇ……って、おい聞けよ……!」  抵抗なんて気にせず勢いよくグイグイ引っ張って諏訪が走り出すと、途中で男子生徒が諦める。  運動部室が並ぶ校庭の端っこまで、二人は手を繋いだまま走り抜けることになった。
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