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終わりだと言いながらも膝に置いた頭を撫でてくれていた甘井呂は、「なんだ?」と言うように視線をくれる。
諏訪は体を起こして、改めて絨毯の上にペタンと座り込んだ。
「今日は抱きしめるのやってくんねぇの?」
流石に照れくさくなった諏訪の頬がほんのり朱色に染まる。甘井呂は諏訪の揺れる瞳を見て目を瞬かせ、それから腕を開いてくれた。
「Hug」
このCommandをもらったのは初めてだった。
諏訪は遠慮なく甘井呂の胸に飛び込む。勢いが良すぎて、甘井呂がベッドに背をついた。
まるで大型犬に飛び付かれたかのように肩を震わせて笑っている。
「Good」
制汗剤とも香水とも違う、自然な香りに包まれる。
わしゃわしゃと短い髪をかき混ぜられると、やはり嬉しくて気持ちいい。諏訪は触れ合う体温の安心感と胸の高鳴りが両立する、この時間が大好きだった。
「変な関係だよな」
ふと、甘井呂が小さな声でボソリと呟いた。
「ダチでもねぇしパートナーでもねぇ。あいつみたいに部活のチームメイトでもねぇ」
深い声で紡がれる言葉に「なんのことだろう」と思いながら、諏訪はぼんやりと耳を傾ける。
甘井呂は、吐息と共に消えそうな声になった。
「俺はお前のなんなんだろうな」
これには答えないといけないと本能で感じ取った諏訪は、甘井呂の言ったことを全て頭の中で繰り返す。
何度かそうするうちに頭のモヤが晴れてくると、諏訪はぱっかりと口を開けた。
「と、友だちじゃなかったのか俺ら」
「逆に友だちなのか」
お互いに質問の応酬になってしまう。
一緒に昼ごはんを食べ、遊ぶ相手のことを「友だち」「友人」と言わずになんというのだろう。
もしかして「友だち」はPlayをしないのだろうか。
諏訪は頭を上げて腕を組む。考え込む姿勢をとっても、この関係性の上手い言い回しが思いつかなかった。
「ま、呼び方なんてなんでも良いだろ! お前といるの、すごく楽しいから」
「そうか」
笑顔で伝えながら、諏訪は厚い胸に顔を埋めた。
だから、抱きしめ直してくれた甘井呂の顔が曇ったことには気が付かなかった。
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