腹が痛い

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「あ? 第二性がどうしたって?」 「いや、なんでもな」 「今、三年のみんなが諏訪に興味津々で……大変そうだよね」  まだその話はしたくなくて止めようとした諏訪だったが、遅かった。  怪訝そうだった甘井呂の顔が、更に険しい色へと変化していく。  引き結ばれた唇を見て、諏訪は腹を括るしかないと生唾を飲み込んだ。 「あのな、甘井呂……実は」 「俺のこと考えてたって、そういうことか」 「……っ」  全身の血の気が引いていく。  長いまつ毛に囲まれた、暗い瞳と視線が合う。  怒りは感じない。ただ、寂しそうな悲しそうな、そんな感情を諏訪は読み取った。  間違いなく甘井呂は気づいてしまったのだ。  諏訪が疑っていたことを。 「どう思うかはあんたの勝手だけど、俺はそういうの喋る相手いねぇから」  想像していたより静かに告げてきた甘井呂は、諏訪を責めることもせず背を向けてしまった。  諏訪は震える手を、離れていく甘井呂に伸ばす。 「待ってくれ甘井呂! やっぱ話を」 「す、諏訪! 止めときなよ! 甘井呂くん、すごく怖い顔してたよ」  必死の形相の佐藤が、諏訪の腕にしがみついて止めてくる。諏訪は振り解こうと佐藤の腕に手を掛けたが、なかなか離してくれない。 「Glare(グレア)とか浴びせられたらSub dropしちゃうかも!」 「離してくれ佐藤! 俺は」 「優しい人でも、完璧に感情がコントロールできるわけじゃないんだからっ」  それでも甘井呂なら大丈夫だと言いたかったが、万が一、諏訪がSub dropしてしまったら甘井呂も傷つくだろう。  それにSubになってから関わったDomたちの印象があまりにも悪い。  SubとしてずっとDomと接してきている佐藤の感覚が正しい気がして、追いかけようとする力が緩んでしまった。  佐藤は更に言い募ってくる。 「不機嫌なDomが本当に怖いの、Subなら分かるだろ?」 「……っ! 甘井呂! 後で連絡するから!!」  すぐに追いかけて話をしないとダメだと心が言っているのに。  いつも助けてくれる甘井呂を信じないといけないのに。  諏訪の足はどうしてもすくんでしまって、動かなかった。
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