見分け

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見分け

「Subかどうかの区別?」  二人しかいない部室で、唐渡は眉を上げて大きな目を瞬かせた。  放課後の部活後、唐渡を呼び止めた諏訪が、 「DomはSubが見分けられるのか」  と、質問したのだ。 「うん……ていうか、DomとSubはお互い分かんのかなって」 「なんとなくは……男と女が一目でだいたい分かるみたいな感じっす」 「そんな分かりやすいのか?」  諏訪は思わず声が大きくなる。  Normalとして生きていると、Domや Subを見分ける必要性がない。Domが強いGlare(グレア)を発したり、パートナーがいる SubがつけるCollar(首輪)などがないと、見た目だけでは分からないのだ。  青いベンチの隣に座る唐渡は、水筒の蓋をカチカチと動かしながら頷く。 「そうなんっすよ。でも、中性的で分かりにくい人もいますよね? 副部長はずっとそんな感じでした」  見分ける能力というのは社会生活を通して少しずつ磨かれる感性らしい。だから、Subになりたてであろう諏訪にはまだピンと来なかった。  だが唐渡の口ぶりからすると、諏訪をSubだろうと思っていたDomは他にもいる可能性がある。  甘井呂が出会ってすぐに諏訪をSubだと判断したように。 「お前はいつから俺がSubかもって思ってた?」 「去年の秋くらいっすかね。春にはなんも感じなかったのに、あれ? って」 「じゃあ、そのくらいに変化したのかな……」  Dom性が強く、勘もいい唐渡を混乱させた理由はそこにある。  初めにNormalだと判断した相手だったから、途中から違和感があっても断言出来なかったのだ。  冬に諏訪が体調崩し始めた時、「もしかしたら欲求発散できていないからかもしれない」と思っていたらしいのだが。 「聞けなくてすんません! 俺の勘違いならまだいいんすけど、隠してんのかもしんないし……」 「そりゃそうだよな、聞きにくいよな……言われても『何言ってんだ?』って言ったと思うし……」  謝られるのが逆に申し訳なくて、諏訪は唐渡の頭を掴んですぐに上げさせる。それでも唐渡は神妙な表情のままだ。 「あんなに体調崩してんのに言えなくて……先越されるし……」 「へ?」 「いえ。だから多分、副部長の周りのDomもそんな感じだったと思うっす」  肩を落としている唐渡が呟いた声が低すぎて聞き返すが、首を振って誤魔化されてしまう。 「薄々思ってただけで、確信したのはこないだのゲーセンで会った時っすけどね」 「Glare(グレア)に当てられたから?」  唐渡は頷いて遠慮がちに視線を彷徨わせた。  第二性の変化が諏訪本人だけでなく、周囲にも混乱をもたらしていることがひしひしと伝わってくる。
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