見分け

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「Sub相手の手応えって、感じがしたっす」 「そっかー……みんながなんとなく分かるなら、噂が流れてもおかしくないか」 「なんかありました?」  甘井呂も唐渡も知らないということは、諏訪がSubであることが変に噂になっているのは三年生の間でだけのようだ。  他の学年とは部活が同じでなければ関わることは少ないから、当然といえば当然だろう。  諏訪は最近の出来事や昼間の甘井呂とのやりとりを、かいつまんで唐渡に話した。 「甘井呂、疑って悪いことしちまった……謝んねぇと……」 「連絡したんですよね? 返事ないんすか」 「うん……」  しょんぼりと項垂れながら、ポケットにしまっていたスマートフォンの画面を開く。  連絡用アプリを見てみても、やはり返事どころか既読にもなっていない。諏訪の表情はますます暗くなった。 「既読くらいつけろよふざけてんな」  横から覗いた唐渡が、まるで自分のことのように眉を顰めて唸る。 「こいつとの関係がとりあえずスッキリするのが副部長には一番かもっすけど」  唐渡は「こいつ」と憎々しげに「甘井呂翔」と書いてある部分を指でコツコツと突いた。それから少し黙って、息を吸う音がする。  言葉が続かないのを不思議に思って諏訪がスマートフォンから顔を上げると、真剣な目に射抜かれた。 「副部長には、俺がいます」  緊張しているのが伝わる声と共に、手首を掴まれる。  諏訪が驚いて身をすくめた拍子に、スルリとスマートフォンが落ちてベンチが乾いた音を立てた。  ケースに付け直した飾りがまた取れてコロコロと転がっていくと、唐渡がハッとして手を離す。 「あ、す、すんません!」 「い、いや! いいんだ、これ取れやすくてっ」  慌てて諏訪はロッカーの方へ行ってしまった小さなサッカーボールを追いかける。不良と会ったときに跪いた衝撃で外れてから、金具が緩んでしまっているらしい。  替え時かなと口に出したいのに、唐渡の言葉が頭を回って何も言葉にならなかった。 (今の、どういう意味だ? まるで……)  心音が早くなり顔に熱が上ってくる。ベンチに戻れず体も起こせないでいると、焦った口調の唐渡が早口で喋り出した。 「ほら! その、Playしないと体調崩すし! それに俺」 「あ、ああ! そういうことか!」  まだ言葉は終わっていなかったのに、諏訪は気付かず遮ってしまう。早とちりで熱くなった頬をぺちんっと叩くと、勢いよく立ち上がった。 「気ぃ使ってくれて、ありがとうなー!」  笑顔で唐渡の頭を撫でながら、諏訪は目から鱗が落ちたようだった。 (唐渡とPlayかぁ……想像したことなかった)
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