部屋を出ろ

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部屋を出ろ

唐渡(からと)ぉ! お前このままだと退部だぞ!」 「わざとじゃねぇっつってんじゃないっすか部長! そもそも佐藤先輩が」 「とにかく早くケアしろ! 先生に見つかったら」 「ストーップ!」  部室の前に着いた瞬間から聞こえてきた怒鳴り声の応酬に、諏訪はドアを開けながら割り込んだ。  諏訪の姿を見た他の部員はあからさまにホッとした表情になり、場の空気が少し和らぐ。  それでも、後ろから入ってきた金髪の部外者を気にする余裕は誰にもないようだった。    壁に沿って備えられたロッカーと青いベンチだけがある狭い空間で、諏訪は視線を巡らせる。    まず目に入るのは部長の林と二年生の唐渡。  Domの唐渡は、林に練習着の胸ぐらを掴まれながらも、全く怯まずに言い返していた。  次に、ベンチにぐったりと倒れる一人の部員。顔は見えずとも、報告のあったSubの佐藤だろう。    ガチャンと鍵をかけてから、諏訪は自分より大きい二人の胸に臆さず手を当てて引き離す。 「二人とも落ち着け。唐渡、ケア出来そうか?」 「……」  諏訪は興奮して息を荒げる二人の肩を叩き、シュンッと大人しくなった唐渡に視線を向けた。  唐渡はDomらしくプライドが高いが、諏訪の言う事だけはいつもすんなりと聞いてくれる。  しかし今回は、首を縦に振らずに俯いてしまった。  唐渡と佐藤の間で何があったのか、諏訪には分からない。それでも青い顔をした唐渡が佐藤のケアが出来る状態ではない事は容易に察せられた。 「佐藤、大丈夫じゃなさそうだし……唐渡が無理なら保健室に」  かろうじて呼吸していることは分かるものの、動かないし声も出さない佐藤の傍へ諏訪は移動する。近くで顔を覗き込めば、額に脂汗を浮かべた小柄な男子生徒はゆるゆると首を振った。 「せんせに……知れたら……」  この状況を作り出してしまった唐渡は、エースストライカーだ。もし校内でチームメイトをSub dropさせたことが公になれば、次の大会に出られない可能性がある。  諏訪は「それは避けたい」と頭を過った自分を叱咤して眉を寄せた。 「あのな。そんなん言ってる場合じゃ」 「おい」 「あ、待たせてごめんな! ちょっと保健室に行ってくるから」  なんとか場を取り繕おうとした諏訪の言葉は聞こえていないかのように、連れてきていた金髪の男子生徒は佐藤の横たわるベンチの側に膝をつく。  険しい表情で佐藤の顔を覗き込んだ彼から、地の底を這うような低い声が部室に響いた。 「このSub以外は部屋を出ろ」
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