振り返れば

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「ねぇ、そう思うよね?」  動揺して答えられなくなった諏訪を鼻で笑った佐藤は、周りの生徒たちに目線を向ける。ずっと諏訪たちを囲んで見物していた数人は、何が楽しいのかゲラゲラ笑い出した。 「Subって、従うしか脳がないもんな」 「そりゃ自分がそんな変態っだって認めらんねぇよ」 「おい……っ」  諏訪は一番近くにいた生徒の首元を掴み間近で睨み付ける。  教室に居るSubは諏訪と佐藤だけではない。  だが相手の生徒は薄ら笑いを浮かべたまま、諏訪の手首を掴む。 「なんだ、相手してほしいのか? 誰でもいいんだもんな。ここでPlayしてやるよ」 「ぐ……っ!」  諏訪は手を捻り上げられ、床に強く叩きつけられた。  上手く受け身を取れずに全身に痛みが響く。  痛みに耐えて体を起こして見上げると、目の前に立っている生徒からは確かにDomの気配を感じた。  この生徒は、「ここ」でPlayをしてやると言った。 「要らないに決まってんだろ」  諏訪は吐き捨てるように言うと、意地で立ち上がる。  不良に囲まれた時は訳わからないまま漠然と嫌だったけど、今回ははっきりと心が拒絶する。  頭の中で、甘井呂の優しい声が「こいつを拒否しろ」と言っている。 (俺のDomはこいつじゃない)  この場をどう切り抜けるかと諏訪が考えている中で、Dom性の生徒はまるでショーでも始めるかのように高らかに声を上げた。 「拒否権があると思ってんのオモシレェな! どうする? とりあえずKneel(跪け)にするか?」  問われた佐藤は、諏訪の机に座って足を組む。  散らばった写真へと視線を落としながら、さして興味もなさそうに口を動かした。 「ぬるいんじゃない? Strip(脱げ)とかどう? Subなら嬉しいよ」 「へぇ。ほんと気持ち悪ぃなSubって」 「ふざけんな! 佐藤、お前何考えてんだよ」  聞こえた単語に寒気を覚え、諏訪は声を荒げてしまう。  甘井呂なら絶対に使わないCommandだ。  そもそもPlayは人が見ているところでするものではないのに、その上でStrip(脱げ)など。  本気で諏訪を恥ずかしめる気だ。  佐藤が佐藤自身を貶めるようなことを言っているのも、許せなかった。
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