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怒ってる
諏訪は静かな教室で一人で椅子に座り、暗い空を眺めながらスマートフォンを耳に当てる。
移動した先の空き教室は椅子と机が並んでいるが、廊下の端にあるため通り過ぎて行く人もいない。
やまない雨音と耳元で鳴るコール音が混ざるのを聞きながら目を閉じた。
(何から聞こう)
出なかったら出なかったで仕方ないと思っていたが、意外にも数コールで佐藤の声がする。
昨日あんなに心を乱された相手なのに、諏訪は自分でも不思議なほど落ち着いていた。
「よー、佐藤。調子どうだ」
「最悪に決まってるよ」
声に張りはないが、いつも通りの佐藤の声だ。
心の余裕はないはずだが、電話に出たということは昨日のことも話していいということだろう。
諏訪は遠慮なく、
「なんであんなことしたんだよ」
と、本題を切り出す。
佐藤も、勿体ぶったりしなかった。
「羨ましかったんだ」
悩む様子は全くなく、端的に答えてくれる。
もしかしたら昨日からずっと、諏訪にどう説明しようかと考えていたのかもしれない。
「一緒のSubなのに、僕を助けるくらい余裕があって……ううん、誰かもわからないSubを当たり前に助けてくれて」
心の内を話し始めた佐藤の声は少し震えていて、それでもゆっくりとしっかりと言葉を紡ぐ。
前に「Subは気持ち悪い」などと言って絡まれているところを助けた時のことを諏訪は思い出した。
確かにあの時は佐藤が見えていなかったから誰かは分からずに声を掛けた。
しかし、それは諏訪にとって特別なことでもなんでもない。もっと言えば、自分がSubだと気づいていなかった時の話だ。
それを佐藤は「羨ましい」と感じたらしい。
「別にそういうことすんの、俺だけじゃないだろ?」
「そういうとこだよ。今だって……僕が諏訪なら二度と顔も見たくないし声も聞きたくないよ。諏訪、逆にサイコパス」
「あれ、なんで俺がディスられてんの」
立場が逆だと唇を尖らせていると、電話の向こうで佐藤が笑う声がする。
「本当良いやつだからさ……唐渡もいつも副部長副部長って」
どこか吹っ切ったような、それでいてまだ拗ねているような声。
諏訪はもう少し話が出来そうだと感じて、机に体重を掛ける。
「唐渡とといえば、お前『気持ち悪い』って言われたっぽいけど何かあったのか?」
引っかかっていたことがようやく聞けた。
他人の家に土足で入るような真似だと思って遠慮していたが、場合によっては唐渡に注意をしなければならない。
気を引き締めて返事を待っていると。
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