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「言ってないよ?」
「言ってたろ!」
しれっとした声に対して、思わず立ち上がってしまう。ガタガタっと机が音を立てた。
思い返してみれば確かに佐藤は「唐渡に気持ち悪いと言われた」と明言していたわけではない。
が、あれは「言った」と言っても過言ではないだろう。
あの流れは、そう思うことを見越しているはずだ。
諏訪の予想は正しく、佐藤は次のように続けた。
「そう勘違いしてもらおうとはした。唐渡の印象を悪くしたかったんだ」
「なんでそんな部活に支障が出そうなこと考えたんだよ……俺のこと普通に嫌いだろお前……」
誰になんの利益があるのか分からない佐藤の言動に脱力してしまう。
諏訪は椅子に座り直し、机に突っ伏した。ひんやりとした机が、興奮した頬に気持ちがいい。
佐藤の声は、また少し笑っているようだった。
「まさか。嫉妬してただけだよ」
「嫉妬?」
「僕が好きになった人、見る目があるらしくてさ。諏訪を好きになっちゃうんだ。僕が惚れっぽいのもよくないけどさぁ」
「えっ! 誰!?」
寝耳に水な情報が入ってきた。
唐渡となんの関係があるのかは不明だが、今までの会話が全て頭から飛んでいく。
佐藤の言い方だと、一人だけの話ではないようだが、そんなにモテていた記憶は諏訪には無い。
なんとしても掘り下げたい情報だった。
「分かんないの、ある意味才能だよ。大事にしてね」
「世界一要らねぇ才能!」
餌をチラつかせるだけチラつかせて、教えてくれる気はないらしい。諏訪は悔しさで頭を掻きむしる。
しかしその口元は笑っていた。
もうどうにもならないかもしれないと思っていた佐藤と、普通に話ができている。
「あはは…………諏訪」
「なんだよ」
「ごめんなさい」
機械を通して聞こえる真剣な声に、諏訪は唇をギュッと噛み締めた。
爆発してしまう前に全て話してくれていたら、昨日のようなことにはならなかったのに。
気づけなかった自分が悪かったなどとは思わないが、話してもらえるほどの信頼を勝ち取れていなかった自分が不甲斐なくは感じる。
スマートフォンを強く握りしめ、乾いた唇を開いた。
「……登校してきてからも、ちゃんと謝れよお前。ほらあれ、えーと、Kneelの姿勢で」
「まだ怒ってるってアピールが下手すぎだよ」
佐藤の言葉の後に鼻を啜るような音が聞こえた気がしたが、雨が窓を叩く音ですぐに掻き消されていった。
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